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異世界で都市開発 ~はぐれ島での新生活~  作者: 里下里山
番外編2
41/64

生存本能

 私が見ている世界は本当に狭かった。

 真っ白な部屋に優しく真っ白な光が入り込む。

 まるで天国を現したかのような白さだが、そこは監獄のように狭い箱の中。


 私はこの世界を本当に愛していた。

 でも、世界は私を愛してはくれなかったようだ。

 もっともっと遠くの世界を見るためにため込んだお小遣いはいつの間にか私が入院するためのお金に消えてしまった。


 定期的に親や友達は私の所を訪ねてくれた。

 時には感情が溢れて涙してくれることもある。

 時には緊張をほぐすように無理やりでも優しい笑顔を見せてくれることもある。

 それは、私にとって恐ろしいほどに空しい出来事だった。


 私は何もやり遂げることもできずにいずれ死ぬだろう。

 自分の体に何度聞いてももう一度動きたいと言ってくれることはない。

 私の時間はとっくに止まってしまっている。

 だから他の人の時間を吸収することでしか生き延びれない。

 

 体も心も死ぬことを望んでいる。

 でもその生存本能だけが、私を生かしていた。

 

 最後にのことは曖昧な記憶だった。

 誰もいない部屋で泣きながら叫べず、それでも声を出した。

 殺して、もう生きたくないって。


 そしたら死神が鎌も持たずに現れて私を優しく抱きしめた。

 いつの間にか私は暗闇の中にいた。

 体は自由を取り戻していた。


 「君はさ、一体何を望んでいるのかな。」


 目の前にいる少年がそう聞いてくる。


 「望み…。

  それは悩ましい質問だ。」

 「屈強な肉体、全てを理解する頭脳、色々あるよね。」

 「とても魅力的だけど、何もいらないかな。」


 少年は目を丸くして、こちらを見ていた。

 私はこの暗闇の中、動く体に奇跡すら感じていた。

 その高揚感は何にも代え難く、他を望んだら取られてしまいそうに脆く。

 結局何も望むことはしなかった。


 「君は本当に変わっている。

  そういう子は本当に好きだけどね。

  君の第二の人生に幸あれ。」


 そう言って、私の視界はまた光を取りもどす。

 私はその時温度を持った涙を流した。

 目を開ければ白で閉じれば黒で、そんな私は憧れていた。

 色を持った世界。

 

 人は活気を持って歩いているし、生活を支える世界はめまぐるしい勢いで動く。

 それだけ、それだけなんだよ。

 私が十年かけても手に入れられなかったもの。

 

 私はとにかくその国を自分の足で歩いた。

 これが世界の一部と考えるとワクワクが止まらなかった。

 ただ、やはりというかこの世界は地球ではない。

 テレビや本で読んだ、色んな記憶は私の脳裏にこびりついている。

 だが、そんなことはどうでもいい。


 この世界は私にとって本当に希望だった。

 色んな人に話を聞いてみる。

 色んなところを見て回ってみる。


 そこから数か月、私は仕事についていた。

 地球でいう所の新聞みたいなものを国中の人に届ける。

 それも、もちろん自分の足で。


 私はもう、何にも負けることはしたくない。

 ある日やってきた旅人は凄腕の男という噂を聞いて俺は弟子入りを志願した。


 「はあ、お前を弟子にすることはしねえよ?」

 「そこをなんとか。」

 「俺は面白い奴に技を教えるだけだ。

  勝手についてこいや。」


 その男は二刀流だった。

 この世界において、とても珍しいことだという。

 だから、かなりの苦労もした。

 それでも、絶対に食らいついていった。


 いつの間にか、私は強さもお金も十分に溜まっていた。

 これで世界中を回ることが出来るだろう。

 私は静かに喜びに浸っていた。


 そんなある日、事件が発生する。

 新聞を配っていた時のこと、女の子が走ってくる。

 

 「ごめんなさい、ちょっと助けてもらってもいい?」

 「おう。」


 かなり焦っていた様子だったので、仕事を一旦置いといて裏路地に隠れる。

 そして隙をついて自分の家まで連れて行った。


 「何があった?」

 「あ、え、えっと。」

 「おい、もしかして悪いことしたのお前か?」

 「えへへ…。」


 私は頭に拳骨を入れて、探していた人たちまで連れていく。

 全く、お騒がせな少女だな。


 その日から、少女とちょくちょく出会うようになっていた。

 家に押しかけてきたり、偶然出会ったりとその手段は様々だったが。

 と、いうようにこの少女以外にも知り合いが増えていって私はこの国でも名が知られるようになっていた。


 そう、私はようやく幸せを手に入れたのだ。

 人間関係、仕事、修行。

 辛いこともたくさんあったけど、それすら心地がいい。

 はず、だった。


 その日も、用事があって家から出ようとしている時だった。

 鼻歌を歌いながら準備を済ませて、玄関で軽快に靴を履いて扉を開く。

 その瞬間、心臓に痛みを感じてその場に倒れこんだ。


 視界が段々と暗くなっていく。

 声が聞こえて、何とか上を見ると少女が声をかけていた。

 どうせ、今日も俺に会いに来たのだろう。

 そこで、意識はぷっつりと切れてしまう。


 目を覚ますと、私は病室にいた。

 体はやっぱり動くことはない。

 あれは夢だったのか、私は静かに嘆いた。

 だが次の瞬間、それが夢よりも数倍辛い現実であると知った。


 「あなた、大丈夫?」


 そこにやってきたのはあの少女だった。

 私は、またも涙を流すことしかできない。

 何で、一瞬でも俺に動ける時間を与えたんだろう。


 「お医者さんは何て?」

 「もう、現代の医学ではどうすることもできないって。

  すぐ、死んじゃうかもしれないって。」

 「そうか。」


 少女もまた泣いている。

 私の涙はとっくに乾ききっていた。

 まだ、早く死ねるだけ救いがあるか。


 「あなた、とっても強いんでしょ?

  私のこと助けてよ。

  私のボディガードやってよ。」

 「言うのが遅いよ。」


 少女は、部屋を出ていく。

 そしてぽつりと一言。


 「明日も、来るから。」


 どうしてこんなことになっちゃったんだろ。

 夜になっても私は考える。

 ある日の母の言葉を思い出した。


 「無理しなくていいのよ、私たちに任せて。」


 ああ、私はまた人に頼りっぱなしか。

 今度は家族もいやしないのに。

 


 違う、違う違う違う違う違う。




 次の日の朝、少女は誰よりも早く病院にやってくる。

 そこで、見た光景は立っている私だった。


 「え、何で?」


 少女は膝を落とす。

 すぐに医者がやってきた。

 この病気になったら、立つことなど絶対にできない。

 つまり、奇跡が起きて完治したのだと。 


 私はこの世界では必要とされている、少なくともこの少女には。

 だったらこんな所で終わるわけにはいかない。


 「ボディガードの話ってさ、本当か?」

 「うん、もちろんだよ。」


 私は立ち止まって少女の目の前、宣言する。


 「私の名前はキョウスケ、今日からあなたに仕えさせてください。」


 私の心臓はまだまだ痛む。

 だが、蘇った生存本能はそれすらも喰らってしまった。

 

 

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