恐ろしい魔王
おーい、みんな顔がこわばりすぎだよ。
いくら相手が魔王様とはいえお客さんだぞ。
そう思っている俺の顔もガチガチかもしれないと、手で物理的に表情をほぐす。
皆がそうやって固まっている内に、魔王が口を開いた。
「驚くのも、無理はない。
私は現魔王である、ディジャバーン。
とある用があって、この島に急遽向かわせてもらった。」
魔王が自己紹介を終えたと同時に、ヴェラル様が前に出る。
「久しぶりだな、魔王。
我に何か用なのだろう。」
魔王は目をパチクリさせるとこう返す。
「まあ、それもないことはないがメインではないぞ。
それより、コウイチという男と話をさせていただいてもよろしいかな?」
ヴェラル様は自分に話があると完璧に思い込んでいたようだ。
さっきの魔王みたいに目をパチクリさせる。
っていうか俺に用事かよ、何かあったっけな。
一息整えてから、俺は前に出た。
「コウイチは俺です、初めまして魔王様。」
「ほう?意外と貧弱そうな男ではないか。
物怖じせず、私の前に出てきたことは評価に値するがな…。」
ひいいいいいいい、なにこれ怖いいいいい。
俺は今の一瞬でいったい何を評価されちゃったの?
ここまで話したところくらいで皆魔王が敵意自体はないらしいことに気付いたようだ。
多少張り詰めた空気が薄くなる。
「ここで長話もなんですから、拠点まで来ていただきましょう。」
ミミリが気を利かせてくれて、一度拠点の方まで移動する。
魔王があまり人数が多すぎるのもな、と言ったので俺とミミリの二人が話を聞くことにした。
こうして、俺たちはうちの拠点でも広い食堂へと向かう。
ここは、普段皆でご飯を食べたり会議をしたりしている場所だ。
魔王と鎧の人は、ゆったりと腰を掛ける。
やはりこの人は王なのだろう、座る仕草ですら気品を感じる。
「さて、色々話したいことはもちろんあるが。
まずはあそこに並んでいた家は何だ?生活の気配がなかったが。」
「実は魔王様が来ることはうわさに聞いておりました。
ただ、人数が分からなかったためなるべく多く宿を用意しておいただけです。」
「ほう、なるほどな。」
魔王はそれを聞いて深く考え込んだ。
かなり筋の通った説明だったと思うんだけど。
まさか、二人で来るとは誰も思わないだろ。
「では、少なくとも一月をかけずにあの量の家を建てたということだな。」
「はい、そういうことです。」
「おっと、そういえば大陸収める者同士同じ立場ではないか。
敬語はやめにしないか、あと魔王とかも。」
「それでいいならやめるよ、改めてよろしくディジャバーンさん。」
「うーむ、まあよろしくな建築屋。」
「ごめん、コウイチって呼んで。」
さんづけすら気に行ってないようだったが、流石に呼び捨てはね。
そういえば今建築屋って言ったっよな、この人。
俺のあだ名、建築屋で定着するの嫌だな。
「ごめん一つだけ気になる所があるんだけど。」
「言ってみろ。」
「ヴェラル様とはどういった関係?」
「…あいつ話していないのか。
ヴェラルは私の娘の一人だよ。
昔から、面白いことが好きなようでな。
気づいた時には、この島に来ていたようだな。」
確かにこの二人には共通点が多かった。
あだ名のつけ方に敬語を嫌う、さっきも驚き方一緒だったし。
でも家族だったとは、ヴェラル様ってあんまり自分の話しないからな。
「そんな娘が気に入っている島だからな。
私も元々、それなりに信用していたんだ。
これからも娘のことも含めてよろしく頼む。」
めっちゃいいお父さんじゃない。
誰だよ、この人に恐ろしいってイメージ植え付けたの。
「色々知れて良かった。
改めてここに来た要件を聞いても大丈夫?」
「そうだったな、ここに来た理由は一つではないから順を追って説明させて欲しい。」
ディジャバーンさんの目が仕事モードに変わる。
俺もしっかりと話を聞いておこう。
メモはミミリに任せておいている。
「元々、いつかはこの島に来る予定であった。
その理由は生態系の維持にあたる。
我々は、魔物の生態を守ることを世界会議によって決められているからな。」
なるほど、この島には魔物が多く住むからな。
そういった魔物の回収が目的だったということか。
世界会議なんてものがあることも一つ知らなかった事実だ。
上の方は意外と協力し合っているんだろうか。
俺も言葉を返す。
「魔物を回収してくれるのはこちらにとってもありがたいことだ。
ほとんどの地域が危険だったから開拓が進められなかったからね。
ただ、そうなると逆に食料の方で問題があるから話し合いは必要だけど。」
「そこらへんは、食材は私たちの方で提供させてもらえないだろうか。
もちろん、農業について興味があるなら指導者も提供する。」
「それはありがたいけど、俺たちからは何を差し出せばいい?」
これは、大陸同士での話し合いだ。
そんなに都合よく、話が進むとはさすがに思っていない。
「うむ、二つだけお願いを聞いてもらえないだろうか。
まずは一つ、私の大陸に住む人間やそれに近い魔物をこの島に移住させてほしい。」
人間に近い魔物とはヴェラル様みたいな感じかな。
それは、魔物がいなくなることで開拓できる場所も広がるし宿も丁度建てたから問題ないだろう。
「二つ目の条件は?」
「コウイチ、お前自身にオルフィス大陸に来てもらいたい。」
「俺?」
「もちろん、移住というわけではない。
ただ、私の大陸では一つ問題が起きているのでな。」
「俺を呼ぶってことは、家が足りてない?」
「まあ、そういうことだ。
最近は、私の大陸は人口増加が激しくてな。
とにかく住むところが足りない。
そうなると弱い人間は追いやられてしまっている現状だ。」
だから、人間はこっちに移住させたいのか。
「でも、正直それ込みでも俺たちがかなりおいしい思いをしているよ。」
「大陸の規模も違うからな、一概に平等がどうとかは言えないがな。
それほど困っているのだ、私が直接出向くほどにな。
お前の要望ならば戦いを教えてやらんこともないし、お願いできないだろうか。」
俺はこの世界では相当弱いんだな、毎回弱い的な指摘をされるな。
正直戦闘面とか教えてもらえるのは嬉しいな。
「兵力が違いすぎるが故、脅しのような形にはなってしまうが…。」
「いや、俺もディジャバーン様のこと悪い人じゃないと思ったから信用させて。
とりあえず今回の話には乗った。」
こうして、俺は現魔王であるディジャバーンとの話し合いを終えたのだった。




