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4.次は誰の番?






「……帰ろ、アヤちゃん」


 話し始めたのはミナちゃんだったけれど、話を打ち切ったのもミナちゃんだった。


 段々日が暮れてきている。

 夕陽に照らされた校舎を、なんとなく振り返れずに帰路を歩く。


 ミナちゃんとは、家が近く無いので早々に別れた。

 1人で歩く道は心細い。


「ユウちゃん……」


 ユウちゃんは、幼稚園に入る前からの友達だった。

 家が近く、親同士も仲が良い。

 いわゆる家族ぐるみ、の付き合いでユウちゃんと私は幼馴染、というものだ。

 喧嘩したって、そっぽ向き合いながらも一緒に帰った。


 寂しさを紛らわすように、少しの怖さを打ち消すように、私は走って家に帰った。


 次の日、学校にキョーカちゃんは来なかった。


「みんな、静かに聞くように。昨日、森川が家を出たきり帰ってこないらしい。何か知ってる人がいたら先生に言ってくれ。それから、しばらくは集団下校をするようにな」


 席の離れたミナちゃんを振り返り、目を合わせる。

 昨日キョーカちゃんは家にいた。

 部屋からさえ、出てこなかった。


 家を出たきり帰ってこないだなんて、変な話だった。


 私とミナちゃんは、休み時間に教室の隅でコソコソと話す。


「やっぱり、ユウちゃん……ユーレイの仕業なんじゃ無い……?」


「まだ分かんないよ」


 周りが私たちのことをこっそり伺っている。

 私たち4人は仲良しグループで、ユウちゃんが裏のため池で発見されていた時からクラスの、いや、学年の注目の的だった。


 同情と好奇心の混じった視線は居心地が悪い。みんな、何か話を聞きたくてウズウズしてるみたいだった。


「上本、高橋、ちょっといいか?」


 教室の扉に、ひょっこりと顔を出したのは担任の西本先生だった。

 手招きされるまま、私達は西本先生についていく。


 案内されたのは、会議室だった。

 長い机の端に、ミナちゃんと並んで座る。


「上本と高橋は森川と仲が良かったな?」


 先生の時に、私たちは頷く。


「昨日、高橋は連絡ノートを届けに行ってくれてたな」


「はい。上本さんと、一緒に行きました」


「そうか……。2人とも、森川とは会ったか?」


「会いました」


「その時、どんな様子だった?」


 どんな様子、と言われても。

 言葉がなかなか出てこない私たちのことを待った末に、西本先生は「うーん」と唸って首を傾ける。


「例えば、何か変なことを言ってたとか」


「変なこと……」



 変なことは言っていた。

 私とミナちゃんは顔を見合わせて、それから結局、何も言わなかった。

 ユーレイの話なんて、先生は信じないだろうし、求められている話はこういうことではないと思った。


「じゃあ、森川は元気だったか?」


「いえ……落ち込んでました。ユウちゃんのことで」


 これには答えられる、と思って私は口を開く。


「……そうか、そういえば、3人は川井と仲が良かったな。わかった、もう行って良いぞ」


「はい」


 その後の授業は、私もミナちゃんもどこか上の空だった。


 キョーカちゃんは一体どこへ行ったのか。

 ユウちゃんのユーレイは本当の話なのか。

 本当の話だとするなら、キョーカちゃんはユウちゃんに連れて行かれてしまったのか。

 それなら、次は私や、ミナちゃんの番なのか……。


 集団下校は、朝の登校班と同じメンバーで、ミナちゃんとは別々だった。


 クラス内ではあんまり喋らない子達も、「森川さんどこ行っちゃったの?」とか、「川井さんは何で死んじゃったんだろ?」とか、無神経で、私にも分からないことを次々に聞いてくるから疲れてしまった。


 翌日の朝の会で、キョーカちゃんは昨日の夜に、ユウちゃんと同じ、学校裏のため池で発見されたと知った。


「呪いだ」


 休憩時間早々、ミナちゃんは私の方に駆け寄ってきてそう言った。


「ユウちゃんの呪いだ。わたしたちを、連れて行こうとしてるんだよ」


 私は肯定も否定もできず、黙った。


「ねえアヤちゃん。次はわたしか、アヤちゃんの番だよ、きっと」


 その時、すぅっと、裏のため池の濁った臭いがした気がして、気分が悪くなった。


 裏のため池は、ユウちゃんが発見されてからずっと立ち入り禁止でドラマでしか見たことないような黄色い立ち入り禁止のテープがため池よりずっと手前から貼られていた。






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