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-承- 新たな職場で活躍する僕

 ナウルは新たな職場に出勤した。

 以前と同じく、冒険者ギルドだ。


 冒険者ギルドは各地に存在し、ここは前職の町から二つ離れた町の冒険者ギルドである。

 幸いにも最近、退職者が出たばかりで、人手が足りなかったらしい。

 人の良さそうなギルドマスターは、彼の境遇に同情してくれたようで、すぐさま仕事を任せてくれた。


 冒険者ギルドとは、その名の通り、冒険者に依頼を斡旋する組織である。

 ここの支部の建物は、二階が職員の仕事場、一階が顧客応対の窓口となっている。

 三年間の職歴を評価され、最低限の説明を受けた翌日に、ナウルは冒険者が出入りする受付の窓口に座っていた。


 依頼の斡旋や交渉など、冒険者と接する経験がないことは敢えて言わなかった。

 余計な先入観を与えて、またつまらない指導や教育を受けさせられたくなかったのだ。


「……意外と、暇だな」


 冒険者ギルドは地域に密着した組織だ。

 だから出入りするのも地元の人間が多く、敢えて新入りのナウルに声を掛けて来る冒険者は少ない。


「兄ちゃん、借りた装備が壊れちまったんだが、どうすりゃいい?」

「あ……い、いま確認します」

「知らねぇのかよ。いいや、他のヤツに聞く」


 たまにそんな質問に答えるくらいで、受付の椅子に座っているだけだ。

 冒険者はせっかちな者が多く、ほとんど彼の確認を待つこともなく次に行ってしまうから、最低限のやり取りで終わってしまう。


 午前中は退屈を持て余したまま時間を潰し、昼食から戻って来て三十分ほどしたタイミングで、ようやくまともに声を掛けられた。

 書類を抱えた、同僚の職員だ。


「グーリンさん、暇なら他の職員を手伝うなり、資料を確認するなりしてください。座ってるだけで仕事になると思ってるんですか?」


 明らかに年下の職員に注意され、ナウルは内心でイラつきながらも冷静に言い返す。


「……資料は確認済みだし、他のヤツを手伝うなら、ここを離れなきゃだろ」

「混雑時ならともかく、明らかに他の職員だけで対応が間に合っている状況で、あなたがそこに座っている意味があると? 少しは考えて動いてください」

「いや、それは……」

「それと午前中に備品を破損した冒険者が質問に来ましたね? 新人らしき職員に聞いたら、答えてもらえなかったと言っていました。どうして答えられなかったんですか?」

「いや……だって、教わってないし」

「冒険者ギルドは共通の規則に基づいて運営されています。備品の管理も同様です。あなたは三年間の勤務経験があると聞きましたが? それに、資料は確認済みだと言っていましたね? その資料に冒険者ギルドの規則は含まれていなかったのですか?」


 矢継ぎ早に攻められ、ナウルは黙り込んだ。

 余計なことを言っても、どうせ反論されて無駄だと思ったのだ。


 こういう自分が正しいと思い込んでいる人種は、何を言っても反抗と見なして、自分の意見が通るまで退こうとしない。

 不毛な言い争いは避けたかった。時間の無駄だ。


 沈黙したナウルに、同僚はわざとらしく溜息をついた。


「……もういいです。まずは冒険者ギルドの、最低限の知識と規則を覚えてください。仕事には責任があります。それを忘れないように」


 何を偉そうに。

 年下のクセに上から目線で説教してくる同僚に、ナウルは内心で毒づいた。



 年下の職員が、余計なことを言ったのだろう。

 翌日、ギルドマスターからの指示で、ナウルは別の仕事をすることになった。


「いきなり窓口は急すぎたね。まずはここのやり方を覚えて欲しい」


 愛想笑いでそう言われ、ナウルは少なからず失望した。


 下の者に少し言われたくらいで方針を変えるようなトップに、誰が付いていきたいと思うのか。

 お人好しなのは結構だが、仮にも人の上に立つ人間であれば、もっと断固とした態度を取るべきだろう。


 部下のご機嫌取り。軋轢を生まない日和見主義。

 そうやってのらりくらりと日々を過ごし、年功序列で繰り上がっただけの、ギルドマスター。

 お人好しと言えば聞こえはいいが、実際は単なる八方美人だ。

 そんな上司の下で、はっきりと物が言える自分は有能だと勘違いした部下が調子に乗っている。


 クソみたいな職場だと思った。

 だから、見返してやろうと決意した。


 ナウルには他の誰にもない、特別な力がある。

 それが『神判の加護』だ。


 加護とは極一部の選ばれた者だけが持つ、特別な才能である。

 ナウルの加護は、同じような才能を持つ他者の加護を見抜くことが出来る。


 以前にいた冒険者ギルドのギルドマスターは、「特別な力が必ずしも有用とは限らない」などと言っていたが、持たざる者の嫉妬にしか聞こえなかった。


 自分は他の者とは違うのだ。

 当たり前の仕事を当たり前にこなすしか出来ない、凡俗どもとは違う。


「僕の名前をこのギルドに刻んでやる」


 決意を胸に秘め、ナウルは動き出した。


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