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-起- ギルドマスターに冷遇される僕

 いつだってそうだ。

 世界は理不尽で、満足のいく結果などくれない。自動で動くカラクリ仕掛けのように、自分を置き去りに回り続ける。


 解雇の通告は、何の前触れもなく伝えられた。


「グーリン君。君はクビだ」


 冒険者ギルドの二階、職員用の居室でナウルは顔を上げた。


 ナウル・グーリンは冒険者ギルドの職員だ。

 今年で四年目。ベテランとまではいかずとも、辛うじて中堅に手がかかりそうな世代。


 そんな彼の目の前には、眼鏡を掛けた細身の男がいる。

 たった今、自分に解雇を告げた冒険者ギルドの長だ。


 巷ではやり手と評判だが、ナウルは知っている。

 この男は単なる太鼓持ちだ。仕事の速さや実績ではなく、貴族に対する接待や高ランク冒険者の優遇で地位を得たゴマすり男。

 ナウルが最も嫌う人種だった。


「何か言いたいことがあるかね?」

「いえ……」


 俯いて、短く答える。


 抵抗する気は起きなかった。

 反論しても無駄だと分かっていたからだ。


 新人で勉強ばかりだった一年目はともかく、実務に入り始める二年目から、ナウルに対する冷遇は露骨だった。

 書類整備や備品の手入れなど、あからさまな閑職に回され、依頼主との交渉や、依頼を受ける冒険者との打ち合わせなど、花形の仕事は一度もやらせてもらったことがない。


 全てはギルドマスターの横暴ゆえだ。

 周りの連中もそんな彼に追従するばかりで、ナウルの味方は一人もいない。


「まあ、何だかんだで三年以上も勤めたんだ。表向きは依願退職という形にしておこう。その方が良いだろう? お互いね」


 何がお互いね、だ。

 自分本位で、他人の気持ちなど考えもしない冷血男のくせに、表向きだけは取り繕って。


 ギルドマスターが自分を辞めさせたい理由は分かっている。

 過去に保守的なギルドマスターのやり方に口を出し、反感を買ったからだ。


 有能な者が出世するのではなく、お偉方のイエスマンだけが優遇される。

 そんな場所に残る理由はなかった。


「……分かりました」


 僕がいなくなって困るのはお前らだ。

 心の中でそう吐き捨て、ナウルはギルドから出た。



 とある四年目の職員がギルドを去った翌日、彼の席の周辺でこんな会話があった。


「あれ? ここの席の人、どうしたの?」

「辞めたって」

「ふうん。引き継ぎとかは?」

「必要ないでしょ。何してたかも知らないし」

「書類整理とか?」

「あ~、やってたやってた。まあ、ホントに整理だけで作成とかはしてなかったけど」

「あ、そうなんだ」


 雑談の輪を作る一人が溜息をついた。

 過去、その人物の教育係を押しつけられていた職員だ。


「最初はやってもらってたんだけどね。あの人、自分の好きなように勝手に書き方変えるんだよ。マニュアルの通りにお願いしますって言ったら、『この方が見やすい』とか何とか言い訳してきてさぁ。ちょっとキレ気味で。ギルドの共通書式だから変えられると困るって、ギルドマスターから注意してもらったんだけど」

「わ、そんなことあったんだ」

「他にも備品の管理とかね。ウチの馴染みの店じゃなくて、勝手に発注先変えて、問題になったの覚えてる? 単価だけなら安くなったけど、そこの仕入れが安定しないせいでポーションが一か月くらい在庫ゼロになっちゃった件」

「あ~、聞いた聞いた。元々取引してた商会が怒って、しばらくウチに商品卸してくれなくなったんだよね。ギルドマスターが何度も頭を下げに行って、ようやく許してもらったらしいけど」

「とうの戦犯はどこ吹く風だったけどね。むしろ自分の提案を受け入れなかったギルドマスターが悪い、みたいな文句言ってるの聞いちゃった」

「え~、本人は謝りに行かなかったの?」

「行かせるわけないじゃん。そもそも仕事できなくて雑用に回されてたんだから」


 ギルドマスターは公平な人物だ。

 上の人間との交渉も如才なくこなし、下の者たちにも分け隔てなく接する。


 仮にも一組織のトップに上り詰めた人間が、無能であるはずがない。

 そんな彼から雑用を押しつけられた職員の能力は、推して知るべきであろう。


「そんなんで、よく三年間もここにいられたねぇ」

「ギルドマスターの温情でしょ。とりあえず三年職歴あれば、働き口くらい見つかるだろうし」

「あんなので他でやっていけるの?」

「さあ?」


 多少面倒見ただけの同僚の今後など、彼女にとってはどうでも良かった。

 それよりも今日のランチをどうするかに話題が移り、それ以降、彼のことを思い出すことは一度もなかった。


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