無理しないでね
20代後半の頃、私はホームヘルパーとして働いていた。
今は介護保険制度も随分変わったと思うので、当時と同じ内容のサービス提供が出来るのかは分からないけど、その頃の私は、要介護のお年寄りや、障害をお持ちのかたのお宅に訪問して、身体的介護、家事支援など行っていた。
「私は元気が取り柄よ! どれだけでも働けるから任せて!」
それくらいの心意気で仕事に励んでいた。
その日も、朝早くから夕方まで数件の訪問を終え、事務所に戻って記録や報告など行ってから、やっと帰宅出来るとホッとしていた。
「なんだかいつもより疲れたなぁ……お腹空いた。それにも増して眠たいなぁ……」
そう思いながら、私は自分の軽自動車に乗り込み、事務所を後にした。
自宅まで車でほんの20分程度だ。
「スーパーに寄ってくか……」
夕飯を作る気力もなく、何か適当にお惣菜とかお弁当とかを買って、好きなお酒や明日の朝ごはんのパンなど買おうと、地元では有名なローカルスーパーの駐車場に車を滑り込ませた。
馴染みの店内はいつもと変わりなく、私はゆったりと各売り場を廻り、あれこれとカゴに入れていった。
「ん?」自分の目が、何かおかしい。
「あれぇ? 何だか目の前がグラグラする? 物が遠くなったり、近くなったり……」
そう思った瞬間からの記憶が全くない。
◇
「ここは……どこですか?」
そんなドラマみたいな台詞、まさか自分か言うはめになるとは。
「病院よ! あなた何も覚えてないの?」
「はい……」
「あなたね、スーパーのお酒売り場の前で仰向けに倒れてたのよ」
「……へ?」
「意識を失って、口から泡を吹いて、舌を噛んでね」
「!?」
そう言われてみれば、口の中がヒリヒリする……
恥ずかしーーい!! なんで酒売り場やねん!
「え? えと、私の車は……」
「そんなこと心配してる場合? 妹さんが運転してご自宅に戻ってるわよ。それよりあなた! 上の血圧がすごく低くて、もう少しで死ぬところだったわよ!」
「えっ……うそ……」
「暫く入院して、あれこれ検査しますからね!」
「はぁ……お願いします……」
それからの私は、毎日点滴を引き連れながら、退屈な入院生活を余儀なくされ、MRI検査や脳波の検査、血液検査やレントゲンなど、ありとあらゆる検査をされたように思うが、あまり記憶がない……
入院中、いつも訪問していたお婆ちゃんがたまたまその病院に入院して来て、「どうしたのよーーあなた!」と驚かれた。
「何だか分からないけど倒れてしまって……」と簡単に話すと、「いくら若いからってね、無理し過ぎたら死ぬのよ」と優しく諭されてしまった。
それから私は10日ほど入院したが、結局どこも悪いわけではなく、寝不足とか過労だろうと診断され、無事退院できた。
今、コロナ禍で頑張っておられる医療従事者の方々、休めず大変な状態の方もいらっしゃるとは思いますが、若い方であっても、ご自分のお体をくれぐれも大切になさって下さいますよう、感謝の気持ちを込めてお願い申し上げます。