24話 肉を斬らせて骨を断たせて
『はい、二人は無事です……けど……』
その先は、声に出せなかった。
少なくない自責の念がイオの心を雁字搦めにして離さなかったのだ。
『過ぎたことじゃ。もう考えるな。こちらから護衛を何人か向かわせるから、彼らと共に安全にリブラへ戻ってきたまえ』
『……分かりました』
ハレーとの決戦を終えたイオ。
彼は戦場から『耳』を通して、リブラ魔法管理局と通信を行っていた。相手はアークトゥルス。
横目で見てみると、そこには担架に苦しそうに横たわる血塗れの男女の姿があった。
ゲミンガの目とスピカの足の再生は間に合ったのだが、どうしても彼らの意識は戻らなかった。
そして、それは精霊も同じである。
器としての条件を満たせなくなったので、精霊たちは彼らの体から離れてしまった。今頃はきっと次の宿主を見つけているだろう。
「シリウス、そっち担いでくれ」
「うん……無事に帰れたらいいね……」
「……ああ」
彼らが受けた傷は奥深くまで達しており、払われた犠牲の血潮からイオは目を逸らせなかった。
そう、自分の力不足を感じていた。
「シロン、持てるか?」
「……平気」
実のところ、二人の体を完全に治せたのかと聞かれると、満足に返事をできないのが現状だった。
その理由は担架に横たわっている二人を見ればすぐに分かるだろう。
「……軽いね」
「俺のせいかな」
「そ、そんなつもりじゃ……っ!」
「あはは……変なこと言ってごめんな……本当に……」
ジュクジュクと腫れ上がっていた患部を治療することは確かにできた。イオのような駆け出し魔法使いであっても、そのくらいなら造作もなかった。
しかし、ゲミンガの左目とスピカの右足そのものはいくら魔力を注入しても戻らなかった。断面が腐っていた訳ではないし、イオの魔法が下手な訳でもなかった。
いくら考えても理由は思い付かなかった。
(何でも治せるんじゃなかったのかよ……)
今は何だか、ゲームの主人公の残機を失ってしまった気分だった。立ち直れないほどではないが、自分が小さくない要因として惨劇の片隅に携わり、その結果として二人の体を消失させてしまったことが、酷く残念に思えたのだった。
もちろん、ここで起こったことやイオが行った治療の顛末については、ゲームの内容とは比べられないほど重苦しく、現実的で、非情だったが。
(……クソだな)
自分を心の中で罵倒した。
まさか自分のことが嫌いになる日が来るなんて思いもしなかった。
いつもは嫌いになる直前で思い止まるのに。
自分が全て悪いのではないと分かっているのに。
「とりあえず王城に戻ろう。もう疲れた」
「ボクも疲れた。さあ、行こう」
物事が一段落した安堵からか、溜まっていた疲れがドッと押し寄せた。
しかし、そんな疲れも『不死』で一掃され、一抹の不安だけが心の片隅に取り残されたのだった。本当に残酷な魔法特性だ。
守れそうなものを守れなかった。
今の自分は、今までに思い描いていた理想の自分から遠く離れている気がする。
イオは担架をウミウシ車に運び込んだところで、冷静にそう分析したのだった。




