22話 役割分担
目的はただ一つ。
ゲミンガとスピカをなんとしてでも連れ帰ることだけ。そのためなら、イオたちはどんな手段を取ることさえも厭わない。
(でも流石に殺せない。どうしよう……)
そう思い、イオはふと隣を見た。
するとそこには臨戦態勢のシリウスが重心を低く身構えており、牙を剥いて息を荒らげているのが分かった。
どうやら迷っている暇はなさそうだ。
「――まずは俺が土魔法で様子を見よう」
「な、なんで? 早く片付けた方がいいよ!」
「ダメだ。ゲミンガさんとスピカさんがあそこまでやられているのは異常だ。何か裏があるはず」
イオは視界の奥に満身創痍の二人を捉えた。
今すぐに治療を施さなければ手遅れになる可能性が高い。それほど凄惨な傷を受けていた。
「ふう……はァッ!!!!」
だからこそ、彼は急がねばならない。焦る気持ちをそのままに目の前に立っている敵を倒さなければならないのだ。
まずは拳を大地に突き立てて、彼が出せる最大限の魔力を注入する。
そして、支配下に置いた土たちの形を整える。
先程までは形を持たなかった柔らかな土が、だんだんと明確な意志によって曲げられ、その姿を凶器へと変えていった。
実在する武器に例えるなら槌が近いだろうか。
「まずは……どいてくれッ!!!!」
患者への道を阻むのはたった一つの障害。それならその障害を取り除くのが正しい判断のはずだ。
シリウスに見守られながら、イオは圧倒的な質量の塊を振り下ろした。幸いなことにハレーは避ける素振りを見せなかった。
「後で治してやるから、お前は寝てろッ!」
「所詮は魔法、実態など皆無だ」
土で作られた槌はハレーを押し潰すかの如く振り下ろされ、それは完全に顔面を捉えていた。
そうして彼はそのまま勝利を掴む、と思われたが実際は全く違った。
なんと凶器が音もなく崩れ去ってしまったのだ。
全くの予想外、想定外の角度からやって来たハプニングにイオは混乱するしかなかった。静けさと共に破壊された槌はポロポロと地面に還ったのだった。
「全ては無に帰した」
「っ!? ど、どうなってる? 何をした!?」
「簡単な話。答えは君が見た通り」
「……まさか魔法が効かない、のか?」
「そう」
ハレーは一歩、前に出た。
それにイオとシリウスは怯えた訳ではない。決してそうではないのだが、一歩、それに呼応するように後退した。
「死神と称されることもある、かの大悪魔の名は誰にも知られていない」
「…………」
「そう、誰も知らないのには理由がある。名を知ってしまった人間は必ず殺されるから、という立派な理由が」
透き通った無色透明に近い髪を撫で付けて、彼は口を開いた。
一切物怖じせず、二人の混血に向かって挨拶を交わそうとしたのだった。
「対魔術師特化人造兵器、ハレー。僕は君たちのような人間を殺すために生まれてきた」
もし自己紹介をする時に、相手に気に入ってもらいたいのなら優しい笑顔を見せると良いだろう。
しかし、迫り来るハレーは一切笑わずに友好の証を求めて前進してきた。
これは恐らく、この世で最も関わってはいけない人物が取る行動だ。
イオは確信した。コイツは俺たちを確実に殺しに来ている、と腹の底から完全に理解したのだった。




