20話 獣道
手は貸せない、とレグルスは言った。
洞窟へ向かうための援軍が欲しかったのに、彼は確かにイオたちにそう言った。
「え? な、なぜですか!?」
王がいるだけで状況は好転するはずなのに。
それでも手は貸せない、とまた言った。
「我には責務がある。君とは違う」
「だ……っ、だから俺は―――」
「喋る暇も惜しいはずだ。貴様は早く出て行け」
レグルスの脳裏にある大人の事情というものが、イオには全く分からなかった。なぜ援軍一つ貸してくれないのか。なぜスピカとゲミンガが窮地に立たされているのに、それを救わないのか。
イオは理解できなかった。
しかし、それとは反対に、自分に嫌がらせで言っている訳ではないことも分かっていた。こんな立派な王がわざわざそんなことを言うはずがないと、イオは確信していたからだ。
しかし、今は時間が足りない。
やはり彼の言う通り、ここから出ていった方がマシなのかもしれない。
「シリウス、彼に供してその洞窟とやらへ向かえ。スピカとゲミンガの救出は任せた。こちらは王城の警護を固めたり、敵の再来に気を立てなければならんのでな」
「は、はい。分かりました」
真っ白な体毛を少しだけ立たせているシリウスは、レグルスの言葉に渋々頷いた。やはり彼女も何か言いたいことはあったようだ。
「イオ君、行こう」
「行きましょう、イオ先輩」
「あ、ああ……」
それから、三人は風を切るかの如く走り出した。
質素で見映えの悪い獅子王の間から抜け出し、だだっ広い廊下を走り抜けて、そのまま王城から飛び出したのだった。
もう時間が惜しいので、彼らは走りながらの作戦会議に突入した。
「これからの動きだけど、二手に分かれよう」
「どうしてだ?」
「イオ先輩と私なら、ウミウシ車で向かうよりも獣化して走った方が早く着きます。だけどあの二人を運ぶための台車も欲しいです」
「なるほど。ボクがウミウシ車に乗って後から合流するということかな?」
「はい。道標は至る所にあるので、迷うことは絶対にないと思います」
「シリウス、どのくらい走り続ければいい?」
「それは分かんないけど……疲れたくらいで足は止めないでしょ?」
「だよな。シロン、後で会おう! シリウス、飛ばすぞ!」
「うん!」
「後でね……じゃあ!」
シロンがウミウシ車の確保に走ったのを見届けてから、ゆっくりと深呼吸をした。
イオは『耳』を頼りに方向を見定めた。
そして―――
「ぅ、オォォォォァァッッ!!!!」
その体を獣へと変化させた。
今回は前回と違って、まだ理性を保っている。正常な獣化が行えたようだった。
「幸先はいいね……ッと!」
彼の獣化を見届けたシリウスは、それに合わせて素早く獣化した。イオとの練度が段違いなのは相変わらずだ。見惚れるほど素晴らしい変身だ。
そんなこんなで、走行姿勢のバランスを少し崩しながらも無事に変貌を遂げた。
その骨格は全体的に狼に近くなり、その体毛はより太く、長く、多くなり体をすっぽりと覆った。
ソレらは風に撫でられて銀色の波を描いた。
「行くぞッ!」
「うん!」
流石は混血と言ったところか。
運動能力は通常の人間と比べて何倍にも跳ね上がっているのが見てとれた。
イオも走り出してすぐに分かったが、スピードもスタミナも桁違いだった。
(絶対に間に合わせる……ッ!)
イオの取り柄は守ること、それと癒すこと。すなわち木魔法と土魔法である。混血としての力はまだまだ浅いが、魔法に関しては少しだけ自信があった。
だから、今それを活かせないで果たしてどこで活かそうというのか。
ここからが踏ん張り時だ。




