18話 壁は高く、天井は見えない
―――シュルシュルシュル
あの不快な風音が響いていた。
ビニール紐を巻き取る時のような、鼓膜をカサカサと撫でてくる音。
「ざけんなっ!!!! どうなってる!?」
ゲミンガの体を切り裂こうと風が迫る。容赦もせず減速もなく、ただ体を抉り取るために筋肉と骨の間に滑り込んでくる。
このくらいの魔法なら簡単に避けられた、もしいつも通りのコンディションだったなら。
「スピカぁっ! 避けろ、死ぬぞぉ!!!!」
「無理無理無理! 痛いよぉっ!!!!」
今日は変だ。何かおかしい。
二人が保持している精霊が応えてくれない。
一体なぜ―――
「ぎっ―――あぁぁぁぁがぁぁぁぁっ!?!?」
おそらく何らかの方法により、二人は精霊へ魔力を供給できなくなってしまったようだ。
そう考えてみると、自然と原因が分かった。
あの少年だ。あの白髪の少年に魔法を使われてから、体の調子がおかしくなってしまったのだ。
「君たちは素晴らしく運がない。まさかジェミニの子が同時に来てるなんて。一体誰が差し向けたんだろうね」
「ぅ、っ、がぁぁぁぁあぁぁっ!!!!」
そうして追い詰められた原因を悟った時、二人の体から激しい血飛沫が吹き出た。
ゲミンガは左目を、スピカは右足を抉られた。どちらもフードの男の風魔法によって。
精霊は宿主の体に憑くと言われているが、二人はその対応する部位を失ってしまった訳だ。
つまり、彼らは器としての役割を果たせない。
もう精霊使いではなくなってしまうのだ。
「ま……っ、や……がれ……」
赤く滲んだ視界に、白い光が映った。
「い、かな……で……」
痛みに歪む視界に、白星が出てきた。
この瞬間にリブラは貴重な二体の精霊を失った。
彼らにのしかかる罪は重く、やってくる未来に希望はない。体を失った痛みと地位を損なった辛さが、二重の波となって二人の心を呑んだ。
ゲミンガとスピカは、洞窟で謎の少年と交戦した末に、なんと帰還途中だったフードの男に遭遇。
なぜか精霊術を発動できず体を抉られて、無理矢理に精霊使いの座から引きずり下ろされたのだった。
イオたちが一時の安堵に心を委ねていた時、その裏で二人は人生で味わったことのないような辛酸を舐めさせられ、真っ当な生きる意志を失ったのだった。




