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A lot of stars  作者: 赤秋の寒天男
第三章 無限の彼方
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16話 獅子奮迅

 時間が経てば経つほど、その戦いは熾烈を極めていった。


 レグルスは鎖鎌であるウォルフを手に取り、鋭く光る凶刃を敵の首にかけんと乱舞している。

 それに対して、フードの男は―――


「イオという名の少年を引き渡せば、こちらは大人しく身を引くが」

「いないと……言っているッ!」


 相変わらず余裕を見せていた。

 彼はレグルスが振るっている鎖鎌をいとも容易く躱しているのだが、それは体術によるものではなく、一種の風魔法が一役買っているようだと分かった。

 透明な風の渦が彼の体を押し上げることで、本来はあり得ないような回避行動を可能にし、その命を繋ぎ止めていたのだった。


 ただ、決定力に欠けているように見える。躱すばかりで一度も攻撃を仕掛けていない。

 まあ、そこには攻撃に転じられない理由があるのだろう。あるいは暗黙の了解が。

 しかし、どんな理由であれ、彼の特徴的な戦闘スタイルはレグルスに対して着実にストレスを与えているように見えた。


「くッ、なぜ避けてばかりいるッ! この根からの臆病者がッ! それならば、我が渾身の咆哮を浴びよッ!!!! 確実に斬り殺してくれるわッ!」


 ついにウォルフを振らずに腰に添えて、自らの膨れ上がった四肢を地面に突き刺したレグルス。

 彼は次の瞬間、喉の奥から王城を揺るがすほどの轟音の波動を放った。


 攻撃範囲は聴覚可能距離全域。そして、攻撃速度は音速そのもの。

 絶対不可避の咆哮砲は、一瞬にしてフードの男の体を突き抜けたのだった。


「そんな叫び声が一体何の…………ん?」


 そして、男は異変に気付いた。

 次の行動を取ろうとした時に、それができなくなっていたのだ。なんと咆哮を浴びてしまった筋肉が、何らかの理由で硬直してしまったのだ。


 巷では一部の動物が発する唸り声は、筋肉を痺れさせる効果があると言われているようだが、どうやらレグルスは獣化することでそれを再現したらしかった。

 牙を剥き出しにした獅子王は、フードの男が行動不能になったのを確認した後、即座に足をバネのように跳ね上げて迫り行った。


「死ねッ! 死んで責任を取って見せろッ! この大莫迦者がァァァァッ!!!!」

「―――っ、危ない危ない」

「……痴れ者め」


 男は首を切られる直前、そのギリギリで風魔法を行使し、何とかして戦場から離脱したのだった。

 両者一歩も譲らぬ伯仲戦。もちろんのことだが終わりは見えなかった。

 しかし、その膠着状態に一石を投じる人間が現れた。彼の言葉によって戦況は大きく動いた。


「おい! そこのお前!」

「ん……?」

「俺の名前はイオだ! お前の狙いは俺だろ!? だったら俺だけを狙えよ!」

「やっぱりいたのか」


 戦場と化した広間に降りてきたイオは、すぐさま危険な状況に身を乗り出して身分を明かした。

 フードの男の実力に到底及ばない彼が、一体なぜこの場に出てくる必要があったのか。晒す必要のない命をこのように無下にした彼に対して、戦闘中だったレグルスは怒りの炎を滾らせた。

 そして、それとは反対にフードの男は恍惚な笑みを浮かべた。

 まるで獲物を視界に捉えた飢獣のように。


「なぜだ、貴様ッ! そこで大人しく―――」

「そこを動くなよ、イオ! お前の力を欲しがってる人がいるんだ!」


 両方が、同時に、イオに向かって駆け出した。


 しかし、機動力ではフードの男が上だった。

 レグルスがいくら早足を心掛けようが、敵には風魔法があるのだ。どれだけ頑張ろうが能力によって差が付いてしまう。


 庇う暇もなく、魔の手がイオに迫る。

 その時だった。


「今だ! シロン、シリウス!」

「うん!」

「はい!」


 イオの掛け声に合わせて、二つの影がバッと広間に侵入して来た。

 そして、彼に迫るフードの男を挟み込むようにして強烈な火魔法を撃ったのだった。相当な技量と互いへの信頼がなければ為し得ない離れ業が、地獄の業火と化して敵に迫る。


「う、あぁっ!? 熱っ!?」


 炎はフードの男の体を舐めるようになぞり、彼の背中に酷い火傷を負わせたのだった。

 これでは戦いを続けることが不可能だと踏んだのか、彼は迷わずに戦線から離脱した。イオたち三人は脅威を退けることに成功したのだった。


「……なぜ大人しくできなかった」


 戦火に落ち着かせる暇を与えぬように、レグルスは冷静に問い詰めた。

 ただ、問い詰めると言っても彼の口調は厳しいものではなく、子を宥める親のようなものだったが。


「すみませんでした。アイツは俺をどうにかして捕まえようとしていたので、俺のせいでレグルス様に迷惑をかける訳にはいかない、と勝手に判断しました」

「輩を退ける力を、お前は持たないはずだ」

「分かってます。だから、俺が率先して囮になって最後は二人に決めて貰いました。客の分際で心配させてしまい、申し訳ありませんでした」


 イオは深々と謝った。

 なぜなら、いくら結果は良くても、危険が伴う作戦であったことを重々承知していたからだ

 しばらく考え込んだ後、レグルスは口を開いた。


「自分に囮が務まるはずだという甘い考えは今すぐに捨てろ。貴様の身を滅ぼすことになる……しかし、今回は見事だった」

「……はい、了解しました」


 誉められたのか叱られたのかよく分からなかったが、イオの心にたった一つだけ、とある感情が芽生えた。


 安堵だ。

 誰も傷付けずに脅威を取り除いたことへの酷く依存性のある安心感だった。

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