14話 音を超えて
その不快な音に気付いたのは、イオたちが朝ごはんを食べている時だった。
シュルシュルシュル、とビニール紐を巻き取っているような耳障りな音だった。
「何か変な音しないか?」
「……別に」
シロンはそう答え、シリウスも無言で首を横に振った。そこで彼は初めて、自分が無意識の内に精霊を介して音を聞いていたと分かった。
そして、妙なことにその不快な音はどんどん王城に近付いてきていた。
なんだか嫌な予感がする。
「なあ、ちょっと外見てく―――」
イオはフォークを置いてから小さな食卓から立ち上がり、それから音のなる方向を眺めて、ようやくその危険性を認識した。
音の正体はあり得ないほど速かった。
そしてソレは人の形をしていた。
しかも動きと音が一致していなかった。
つまるところ、ソレは音を置き去りにしていた。
窓の外に、空気の渦を纏ってこちらへ猛進する影が見えたので、イオは咄嗟に叫び声を上げた。
「ふ、伏せろぉっ!!!!」
音の主は、頑丈な王城の白壁に衝突する寸前、その勢いを急激に落とした。てっきりぶつかってくると彼は予想していたのだが、それは運良く外れることになった。
しかし、それではリオ王城側は被害を免れたことにならない。実のところ、別の問題が実害としてやって来るだけだ。
イオにはそれが分かった。
シロンとシリウスはイオの声を聞いて反射的に身を屈めて、机の下に入ってくれた。
それからほんの少しだけ静寂が訪れて、二人は胸を撫で下ろしかけたが―――
次の瞬間、王城の全ての窓と正面の壁の一部が破られたのだった。
◆◆◆
場所は変わって王城ロビー。
音の主―――ではなく敵は、律儀に正面から侵入してきたのだった。
フードを被っているためにその顔は見えない。
「ゲホッ! ゲホッ! あ、あー……イオはどこにいる?」
喉の調子を整えた後、はっきりとそう言った。なぜイオの名前を知っているのか定かではないが、こうして無理に王城にやって来たということは、つまりそう言うことだろう。
絶対に敵意がある。
そして、その開戦の合図とも取れる言葉に応えるようにレグルスが登場した。
眉間に皺を寄せて明らかに怒っていた。
「イオはここにはいない。だから帰れ。帰らないなら城の修理代として命を払ってもらう」
「それは嘘だな。どうして権力者はすぐに嘘で誤魔化すんだ。この嘘つき野郎が」
「……貴様は誰だ。敵意があると見た」
「俺か? 俺様は―――」
声の高低から男であると推測できたが、やはりフードのせいで顔は見えなかった。
それにしても一体どこの誰なのだろうか。あれだけの風魔法の使い手なら、候補は絞り込めると思うのだが。
「―――理由があって名乗れない。もし知りたいならお前の墓碑銘にでも書き込んでおいてやる」
「ふん、大口を叩くか」
まともに名乗る気はない癖に、どうやら戦う気はあるようだ。王に相対する自信があるということは、彼は相当な実力者であるはずだ。
しばし二人は睨み合い、ロビーにいた部下たちが逃げるのを待った。
そして、レグルスは己の中の闘争心を奮い起たせて瞬間的に獣化し、少し離れた場所に立っているフードの男に飛び掛かった。
イオは会話の一部始終を別の場所で聞いていたが、あまりにも怖くて動けなかった。
なぜなら彼が刺客に名指しで命を狙われたのは、これが初めてだったからである。




