4話 鉄の蛇
一瞬の内にリオに到着してしまった。
超常現象を身を持って体験したイオは、未だに驚きが隠せないでいた。
「種明かしだ! 実はアタシの精霊の力で瞬間移動しちゃいました~!」
「は、はぁ……」
まあ、そんな感じだと分かっていた。
魔法で瞬間移動を再現することは想像に難しく、また魔法体系から大きく外れている術であるために推測から間違っていることが分かる。
なぜならこの世界には七つの属性の魔法しか存在しないのだから。それで人を離れた場所に運ぶのは無理があるだろう。
「ってか、『足』って瞬間移動できるんですね。俺なんて音が鮮明に聞こえるくらいですよ」
「ふふ~ん。羨ましいだろ」
イオがスピカの精霊術を看破できたのは、彼自身が精霊使いだからで、実際に色々と勉強した結果でもある。
そう、彼の記憶から消えてしまった例の事件も全てゲミンガに見通されているので、そこでイオが『耳』の精霊を継承している可能性があると示唆されたのだ。
まあ、その可能性を確実にしたのはマイアという『性』の精霊使いの力だったが。彼女の精霊探知能力により、ブラキウムが保持していた『耳』がイオに移ったと分かった。
しかし継承の理由については、もちろん誰もイオに教えなかった。彼の記憶喪失に深く関わっている問題であるために、誰も言い出せなかったのだ。
それでも彼自身は「音が鮮明に聞こえる能力が運良く宿った」程度には認識はしているらしいが。
こんな長話は置いといて、物語は前へ前へと進んでいく。
「それじゃ、王城へ案内しますので! 私に付いてきてくださいね!」
四人全員によく聞こえるように、シリウスはハキハキと説明をした。
少女の性格は非常に明るく、接する人間全員に幸せを分け与えていた。イオとて例外ではなく、連続して行われた国家間移動の疲れを精神的に癒されたのだった。
彼女はクルンと振り向いて少々足早に先頭を歩いていった。そこでイオは、彼女の腰から生えている尻尾に視線を這わせた。
「なあ、俺にもあんな尻尾が生えてたのか?」
「うん、混血は皆そうだよ。動物みたいに全身に毛が生える人もいる」
シロンに混血の身体的特徴について尋ねたところ、詳しい情報が返ってきた。過去に混血について学んだ事があるのだろう。
しかし、説明を終えた彼女の表情はあまり良いものとは思えなかった。
そこでバツが悪くなって視線を後ろに向けてみると、あの二人が談笑していた。
「ねぇねぇ、仕事が終わったら一緒に遊びに行こうよ。アタシの友達がやってるお店があって―――」
「行くかよ。仕事が終わったら帰る」
「え~」
スピカとゲミンガが楽しそうに喋っている。
二人を見ていると何となくだが、付かず離れずの腐れ縁なのだろうと予想できた。スピカが突っつき、ゲミンガがそれをいなす。
一見すると険悪な雰囲気に思えるが、実際はとても仲が良さそうだった。
イオは隣で顔を下げていたシロンを呼び、二人の関係性について探ろうとした。
「二人は仲が良いんだな……」
「ボクもそう思うよ。あの二人は―――」
「おい、シロン、勝手に答えるんじゃねぇぞ。俺たちはあくまで義理の兄妹ってだけだ。シリウスもあんまり勘違いするなよ」
「ひぃっ! ごめんなさいごめんなさい……」
ゲミンガの強い語気に反応して、シリウスの耳がギュッと縮んだ。
それにしても義理の兄妹とは驚いた。アークトゥルスの拾い子は皆そういう関係で結ばれているのか。それとも二人だけが特別なのか。
イオは少しだけ気になった。
そうして、建物が立ち並ぶ中をしばらく歩いていると少し開けた広場のような所に出てきた。
柱状の建造物に隠れて見えなかった王城が、ようやくイオたちの前に顔を出したのだった。
「折角ならあそこまでワープしましょうよ」
「あ、それは無理」
イオは少しでも楽をしようと提案をしてみたが、無慈悲にスピカに却下されてしまった。
こういうのは簡単にいかないものだ。
「何でですか? そんなに遠くないですよ」
「普通に魔力が切れちゃった」
「え?」
「午前中に『足』を働かせ過ぎて、気付いたら魔力が枯渇しちゃってた……」
どうやら精霊術にも魔力は必要らしい。イオは精霊術に関する新しい事実を学んだ。
そうやって彼が一人で感心していた時、スピカは他四人にキツい視線を向けられて申し訳なさそうに頭を掻いたのだった。他のメンバーも少しは楽をしたかったらしい。
特にゲミンガの視線は物凄く、ゴミを見るような目だった。精霊術でも使っているのかと疑うレベルの鬼気迫る表情だ。
しかし、ゆっくりと目を閉じて一旦心を落ち着けた後に続けて言った。
「まあ、仕方ねぇよな。誰だって間違うことはある。シリウス、歩いて行くぞ」
「は、はいぃ……」
(最初から王城にワープすれば良かったのでは?)
イオは誰でも思い付きそうな単純な疑問を頭に浮かべた。
そんなこんなで引き続き歩みを進める一行の前に、突然黒い影が飛び出してきた。
影が着地した時に奇妙な音が鳴った気がした。
「うわっ!? って、ウォルフ様かぁ……びっくりしたぁ」
「あらら、驚かせちゃった? ごめんなさいね」
影は日光に曝され、ようやく姿を現した。
どうやらウォルフと呼ばれる生き物らしい。そしてシリウスと知り合いのようだ。
口調からお姉さん、またはお母さんのような柔らかい物腰という印象を受ける。
その姿を見るようなことさえなければ。
「知り合いなのか?」
「そうです! というか偉い人です。この方はレグルス様の奥様のウォルフ様です」
「奥……様? それ本気で言ってるのか?」
「うふふ、私を初めて見た方はこの姿に心底驚かれますわ。でも安心して下さいまし。私は他の方と何も変わらず接していただければ幸いですから。では改めまして……私はウォルフと申しますわ。リオの王であるサムニブ・レグルスの妻でもあります。どうぞよろしくお願い致しますわ」
ウォルフは終始丁寧な言葉運びで自己紹介をこなした。
しかし、イオはどうにも納得出来ない。
なぜなら彼女……いや、その生物は―――
(本当に生きてんのか……これ)
どこからどう見ても、鎖鎌そのものにしか見えなかったのだから。
少なくともイオが知る生物の姿ではなかった。




