3話 あっという間
リブラ管理局の正面玄関前にて。
旅の準備を済ませた五人。イオ、シロン、スピカ、ゲミンガ、そしてシリウスが並んでいた。
「リブラか……どんな所なんだろうなぁ」
「混血の人がたくさんいるらしいよ」
「ん? 混血って?」
「……じゅ、獣人のことでは?」
「ああ、そう言えばそんな言い方だったな」
軽く会話をする年少三人組。
イオの呑気な質問にシロンとシリウスが介護のように一々答えているところだった。
そんな光景を見て、スピカは口元を緩ませた。ニヤニヤしたままゲミンガを小突いたのだった。
「アタシたちにもあんな時があったよね?」
「そうかぁ? 忘れちまった」
「嘘だ~。すぐに忘れたフリしちゃって~」
「おめぇは記憶喪失だろ。こっちのが流石に記憶力良いわ。バーカ」
「あっ! 越えちゃいけないライン越えたね!? ライン越えライン越え!」
記憶喪失という点をイジられて怒るスピカ。
彼女は大声で捲し立てたのだが、ゲミンガは慣れた様子で受け流した。
まあ、それなりに付き合いが長いのだろう。普通なら殴り合いの大喧嘩になるところだが、互いに引き際を弁えているようで、ただじゃれ合うだけに留まったのだった。まるで子供のようだった。
そんな衝突からしばらくして、二人の間に別の声が割って入った。声変わりを迎えた少年の声。
「あのー……いつ出発するんですか? そろそろ駅に行かないとマズイと思いますけど」
「あ、そっか。イオは初めてだったな」
「……?」
スピカの言っている意味が分からず、彼は思わず首を傾げた。一体何が初めてだと言うのか。
ボーッとしている彼を尻目に、スピカがさっさと一歩前に出て言った。
「よし、準備はいいか? 皆で手を繋いで!」
「え、何するんですか?」
「繋いだら分かるよ!」
彼女は妖艶な笑みを浮かべてみせた。
ゲミンガとシロン、シリウスは特に戸惑う様子を見せず、彼の隣をすり抜けてスピカの下へ行ったが、説明を受けていないイオだけはしどろもどろに。
他のメンバーはその様子を笑うだけで、特に何も教えてくれなかった。
「え、えっと……手を繋げば良いんですね?」
スピカの右手にはゲミンガが付いていたので、イオは彼女の左手側に回り、女性二人に挟まれる形になった。
両手に柔らかな感触を覚えつつ、彼は正面を見据えて深呼吸。
眼下に石畳を捉え、そこから視線を空へ移した。
「よし……それじゃあ行くよっ!」
青空に心を癒された次の瞬間、グッと何かに引き込まれる感覚があり、それに続いて急激な視界の回転が襲来する。
イオは乗り物酔いに近い感覚を味わい、思わず上下を忘れて気を悪くした。胃の内容物を吐き出しそうになるも必死に堪えて、目の前の景色に意識を集中させるのだった。
そして数秒後、ようやく気付いた。
周囲の景色が変わっていることに。
「―――あれ? ここどこですか? え!?」
「あっははは! その反応が見たかったんだ!」
目を見開いてみると、そこには今までとは違った異景色が広がっていた。
そこかしこに灰白色の柱状の建物が立ち並んでおり、通り過ぎる人々の頭部には獣のような耳、腰部には獣のような尻尾が付いているではないか。
更に視界の奥を辿ってみると、緑豊かな森林があるのが分かり、ますます疑念を確信に変えた。
ここはどう考えてもリブラではない。
「えー、こほん! 改めまして―――」
シリウスがトテトテと小走りで皆の前に出た。
そして振り返り、体を大の字に広げて言った。
「リオへようこそ、御一行様! 短い旅でしたが、ご苦労様でした!」
随分と可愛らしく言い放ったが、イオはそれを見ても何が何だかさっぱりだった。
しかし何となくではあるが、今の彼ならこの現象を説明ができる気がする。
一瞬の内に全く知らない場所へやって来た現象を説明するには、アレの存在が適しているはずだ。
「これって精霊の力ですよね……もしかして瞬間移動ってヤツですか!?」
それを聞いてスピカは正解だよ、と言わんばかりの笑顔を浮かべた。
イオたちは一瞬でリオに到達したのだった。
ここは混血が多く住まう獅子王の国だ。彼はここで獣化するための技術を学ぶことになるのだ。




