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A lot of stars  作者: 赤秋の寒天男
第三章 無限の彼方
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2話 お誘いです!

「だから、えーと、あのー……そ、そうです! お誘いです!」


 狼人の少女であるシリウスは、尻尾をバタつかせながら言った。


 魔法の力を最大限に活用して、リブラ魔法管理局素早く修復されていた。ブラキウムが暴れた例の中庭を中心に広がっていた傷は跡形もなく消されていたのだった。

 その新管理局のとある部屋に皆で集まっていた。

 そこにはイオたちだけではなく、スピカやアークトゥルスの姿もあり、それに加えて―――


「ま、お誘いってんなら……俺たちは乗るしかないよなぁ?」


 見知らぬ男性もいた。

 見た目を書き出すなら、長身に灰髪の男。目の下にうっすらとクマがあって、少しばかり健康でないように見える。

 立ち振舞いや話し振りから、恐らくはスピカの知り合いか誰かだと推測できるのだが。


「ねえ、ゲミンガ……どうなの?」

「どうって、そりゃあ何か悪いものが見えてたら事前に伝えるさ」


 名前はゲミンガ。

 確か『目』の精霊を保持している人間だ。

 能力を用いれば過去や未来を自由に見通すことができるようになると言われていて、いわば最強の精霊使いの一角である。

 まあ、別に弱い精霊がいる訳ではないのだが、強さには少なからず差が出る。そこで『目』は他の精霊よりほんのちょっとだけ超常的な力を使えるという話だ。


 ところでスピカが意味深な質問をしたが、それは彼の能力を頼ってのこと。

 さっきも言ったように、彼は未来を見通すことであらゆる厄災から逃れられるのだ。それだけでなく過去を見通すことで全ての問題をも解決する。

 アークトゥルスにその能力を気に入られていて、局長は彼に頻繁に未来の事象を尋ねているようだ。


「ま、一つだけ心配はあるがな。俺の目にはアクエリアスの事件が映らなかった。そこんとこ、どうなんだ?」

「…………」

「お前だよ、お前。イオだっけか?」

「あ、俺ですか? えっと、どうって言われても」

「まさか嘘をついてる訳じゃないだろうな? 精霊の力は絶対なんだぞ。俺の目に映らなかったって事は全部嘘なんじゃないのか?」

「そ、そんな……」


 ゲミンガは怒っていた、と言うより焦っていた。

 焦りを怒りに変換してイオにぶつけることで心を落ち着かせていたのだ。

 普段から未来を眺めている彼だが、実はアクエリアスで怒った事件は予知できなかったのだ。もちろんアークトゥルスから事前にイオを占うように言われていたし、見落としがないように入念に確認した。

 それなのにメローペという巨悪を見逃してしまったのだ。

 彼の人生でそんなことは初めてだった。


「嘘じゃないです。メローペ……マイアさんはちゃんとバニローさんに引き渡しましたし」

「バニローの野郎の名前は出さない方がいいぞ、一気に胡散臭くなる」


 しかし彼とて、無意味に人を疑ったり貶めたりはしない。これでもアークトゥルスに直接教育を受けた数少ない用心棒の一人。

 彼は排除すべき癌を誤ることはない。

 しかし、どうしても納得ができなかった。


(もしコイツの言ってることが本当なら、俺はこれからどうすればいいんだよ……っ)


 彼は常に未来予知で安全を確保してきた。

 今更その安全を手放すのは、彼にとって最も恐ろしいことの一つだ。それは言うまでもないし、この問題は管理局の未来に関わってくる。

 そうして深刻な表情で思い悩むゲミンガを前に、白髪の少女が声をかけようとした。


「あ、あのー……お誘いの返事は……?」

「心配せんでも良い。すぐにでもゲミンガ君たちを向かわせよう」

「よ、良かった~」


 不安気なシリウスの声に答えたのは、他でもないアークトゥルスだった。

 彼は落ち着いた様子で場を制し、一言告げた。

 それに対して、スピカとゲミンガ、カナンは反射的に口を閉じて彼に振り向いたのだった。


「ここらで一旦整理しようかの。今回の依頼はリオの王、サムニブ・レグルス殿からじゃ。リオ北西部の樹林の奥に存在する洞窟、そこの魔鉱石の採掘場の調査であるとな。

近年、そこの魔鉱石に含まれているはずの魔力がごっそり抜け落ちた状態で発掘されることが相次いでおるらしく、それを精霊の力で調査したいとのことじゃ。

国が総出で力を入れておる重要な産業、その鉱業の明暗が賭かっておるようでな」

「現地調査に精霊を二体も使うなんて、よっぽどのバカか、傲慢で贅沢なヤツだ」

「……まあ、規模は他の採掘場と段違いに大きいからの。『足』と『目』で手っ取り早く終わらせたいんじゃろう。それとレグルス殿への不敬は控えることじゃな、ゲミンガ君」

「へいへい」

「それで、護衛とかどうするんですか?」


 レグルスの頼みは分かるが、そこまでする必要はあるのだろうか。

 精霊は世界に五体しかいない貴重な存在で、しかもかなり強力だ。それを二体も国外に出すなんて普通では考えられないし、リスクも大きいはず。

 『目』のリスク回避能力も織り込んでの頼みなのだろうか、とイオは勝手に予想してみた。

 ついでに質問も。


「護衛は要らんじゃろ」

「え!? 要らない!?」

「あんまりナメられたら困るぜ。俺たちは仮にも精霊使いだ。魔法使いが束になって襲ってきても、どうにもならねぇよ。それに護衛がいると逆に動けない。走れねぇし見えねぇ」


 意外すぎる答えに驚いてしまったが、当人たちがそういうなら問題はないのだろう。隣でアークトゥルスが納得した表情を浮かべているし。

 それに魔法や戦闘に関しては、イオはあくまで素人なのだから口出しはできない。


「……続けていいかの? ごほん、そして今回の依頼には別の目的でイオ君たちが同行する、と」

「はい、大丈夫ですよね?」

「儂は構わんよ。それでゲミンガ君たちは……」

「俺は別に構いませんよ。人は多い方が楽しいだろうしな」

「アタシも大丈夫だよ。ね、シロンちゃん」

「は、はい……そうですね」


 なぜかシロンは挙動不審な様子でスピカに返事をした。もしや今まで気付かなかっただけで、彼女は重度の人見知りなのだろうか。


 とまあ、そんなことは置いといて、こうしてイオとシロン、スピカとゲミンガの四人でリオに向かう事になった。

 あとはカナンの参加意思だが―――


「あ、僕は先生とリブラに残るよ。国がすっからかんだと心配だからね」


 どうやら来ないみたいだ。

 そのことは事前に局長も知っていたらしく、満足そうな表情で会議を締め括ろうとした。

 そんな雰囲気にシリウスはキラキラと目を輝かせており、リブラからの訪問者を歓迎するのだった。


「それでは諸君ら、各自旅の準備を進めるように。イオ君たちは旅続きで大変じゃのう」

「そんなことないですよ。俺にとっては、この世界に来たこと自体が旅みたいなものですから」

「そうか……」


 イオは珍しく屈託のない笑顔を見せた。

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