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A lot of stars  作者: 赤秋の寒天男
第三章 無限の彼方
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1話 真っ白な訪問者

 気が付けば、ウミウシ車はリブラ魔法管理局の近くまでやって来ていた。


 丘の上に高くそびえ立つ建物を見つけたイオは、ふと隣の座席いる少女に目を向けた。シロンはいつの間にか寝てしまっていたらしい。

 彼女は車輪が岩に乗り上げる音で目が覚めた。


「着いたぞ。起きろ」

「ん……」


 横になっていたイオは起き上がってすぐに頭を触ってみたが、特に異常は感じられなかった。あの不気味な角は一体どこへ行ってしまったのだろうか。

 まあ、そんなことは気にせずに、今はシロンを起こしてやろう。


「おい、起きろ。降りる準備をしろよ」

「……ぐがぁ」


 相変わらず寝相が悪い。

 寝る子は育つと言うので特に気にならないが。それにしても酷いものだ。


「しっかし……角、本当に引っ込んだんだな」


 数時間前のこと、イオは首から提げていた石によって頭に角が生えてしまった。

 シロンの助言を頼りにどうにか元の状態に戻ろうとしたのだが、それがうまくいかなかったので、とりあえず横になって放置していたという訳だ。


 ガタンガタンと石畳の上を進んでいくと、見慣れた建物が頭上に見えた。

 いや、見慣れたという表現はおかしいかもしれない。ここでは不適切だった。

 なぜならイオは―――


「……初めて外から全体を見たけど……意外と大きいんだな」


 記憶喪失が未だに治っていないのだ。

 彼は『不死』の力で記憶を修復できるはずなのだが、一向にそれをしないということは意識の奥底に何かがつっかえているということを示している。

 それが何なのかは分からないが、イオの復活を邪魔していることは事実だ。

 そして、それを見つけて取り除くのがリブラ魔法管理局の当面の任務である。


「……ん、寝てた」

「やっと起きたか。降りるぞ」

「ごめん、体がダルいから抱っこして」

「は? 治してやるから甘えんな」

「ケチ」


 シロンは両手を広げて抱っこをせがんできたが、そんな恥ずかしいことには応じられないし、そもそも女の子を抱え上げる筋力がイオにはない。

 彼女にさっさと治癒魔法をかけてやり、彼女の手を乱暴に引いてウミウシ車から降りる。

 先導を務めてくれたウミウシは、次の客を乗せるべくノソノソと車庫へ戻ったのだった。


「いやぁ……一週間しか離れてないのに久しぶりって感じがする」

「そうだな。階段を上らなきゃ」


 イオは管理局の前に長く続く階段を見て、億劫にならずにはいられなかった。一見しなくてもキツそうだと分かるし、本当は上りたくもないからだ。


 魔法が存在する世界なんだから、疑似エレベーターか疑似エスカレーターくらい作れよ、と内心思っているが、恐らくはそのような発想がそもそもないのだろう。

 改めて考えてみると、人の乗った箱や階段を動かすというアイデアはなかなかぶっ飛んでいるとイオは思った。

 先人たちの試行錯誤の苦労が計り知れる。それと電気は偉大だってことも。


 一段、また一段と地道に足を動かす作業の中で、二人の間にとある会話が起きた。

 あまりにも暇すぎたのか、それとも疲れを紛らわしたかったのか。それは誰にも分からないが。


「なあ、角が生えてるヤツって……どうなんだ?」


 イオは両手で側頭部を指差して言った。

 それから鬼のジェスチャーをしてみせたが、それはたぶん伝わっていないと思われた。


「どういうこと?」

「あー、角が生えたり尻尾が生えたりするのって遺伝なのかな……と」

「基本的にはそうだね。だからイオ君の出自が……よく分からなくなってきた」

「俺もよく分かんないよ。分からないって怖いな」


 いくら悩んでも、分からないものは分からない。

 だから知ろうとする。彼らがそうだ。

 イオたちの次の目的地はもう決定済み。


 その後は特に会話をすることもなく、ただ淡々と頂上を目指した。

 階段を上り切った頃には、シロンはあまり疲れてなかったのだが、それとは反対にイオは肩で息をしていた。

 何とも情けなかった。


「そっちを……はあ、はあ……押してくれ」

「うん」


 管理局の正面玄関までやって来た。二人の前には例の荘厳な扉が立ち塞がっている。

 イオが扉の右側、シロンが扉の左側に付いて、ゆっくりと押し開けようと踏ん張った。

 別に二人で押さないと開かないという訳でもないのだが、片方に任せるのは気が引けるので、何となく二人で押したのだった。


 そこに二人の優しさが現れているのだが、互いにそれには気付かないまま扉を開け放った。

 ゴオッと空気に背中を押される感覚を味わい、それを受けながら中を見渡そうとした。


「ただい―――」

「わ、わぁー!? わぶっ!」


 と、そんな時。シロンと何者かが衝突した。

 どうやらあちら側は扉を開けようとしている者がいるとは気付かずに、今まさに外へ向かおうとしていたようだった。

 金髪を揺らすシロンの声に重なるようにして、謎の少女の声がイオたちの耳に飛び込んできた。


 とても高く明るい声色だ。

 その声の主は、自身の支えをなくしたがためにシロンの胸に勢い余って埋もれたのだった。

 そしてすぐに飛び退いた。


「ご、ご、ごめんなさいっ! 悪気があった訳じゃなくて……」

「ボクは別に大丈夫だよ。それで君は誰なの? とっても小さく見えるんだけど」

「あ、私はシリウスって言いますっ! リオからやってきた火魔法使いです!」


 頬を染めつつ、急いで身なりを正したシリウス。

 純白の絹のような髪にピョコンと可愛らしい耳を立たせて、彼女は元気良く自己紹介をして見せた。


 その姿形は、まさにイオが説明を受けた通りの獣人のそれ……いわゆる混血の姿だった。

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