IF-2 新田五百のこおりづけ
とても寒い日だった。
「―――メローペだったか!? 俺と勝負だ!」
本当に寒くて、心臓が止まってしまいそうなくらい嫌な日だった。
「―――引き際、を教えて……あげる」
否、彼の心臓は完全に停止した。
寒気に当てられて鼓動が止まりそうになったのではなく、その体を丸ごと氷の中に閉じ込められてしまい鼓動を止められてしまったのだった。
こうなってしまえば、例え『不死』をもってしても生き返ることは叶わない。凍えた体を元に戻すには氷を溶かすしかないからだ。
これも全てはシロンを守るためだった。
「あなたは横か、ら見てるだけ……?」
「あ、あぁ……イオ、君……そんな……」
あまりの寒さに、あの灼熱を纏う太陽でさえも凍り付いてしまいそうだ。もしそんなことになれば、もう誰にも彼女は止められないだろう。
だらんと下がっていた腕を重々しく持ち上げて、メローペは氷魔法による攻撃を行った。
そして、あっという間に容赦のない氷の弾丸たちがシロンの体に次々と突き刺さり、見事に赤い噴水を造り出して見せたのだった。
「精霊……ん」
湖面の氷のステージの上には、二つの芸術作品が出来上がっていた。
一つは、尊い勇気を称えた少年の氷像。
もう一つは、儚い夢にやぶれた少女の胸像だ。
だがここだけではない。
街に行けばもっとたくさんの『作品』に出会えるだろう。その作品群に共通するテーマは、絶望といったところだろうか。
それとも冷酷か。
「……誰?」
ただ、それだけでは面白くも何ともないので、意匠を凝らした特別な作品が例外的に用意されていたらしかった。
それは運命の悪戯か、燃え上がる炎をテーマにした彫刻がその作品展に紛れ込んでいた。
「『火星』……? いや……プロミ―――」
「それ以上喋るな。声も聞きたくない」
たった一つ……いや一人、彼だけは氷に閉じ込められずに抗うことができる。逃げ場のない運命の袋小路に光をもたらしてくれる。
そう、彼こそが新たな太陽だ。
「ごめんよ、守ってやれなくて。君もだ……巻き込んでしまって本当に済まなかった―――すぐに仇を討って見せるからね」
「……何を、言って―――」
次の瞬間、太陽が放った熱波か氷も木も人も……周囲の全てを呑み込み、焼き尽くした。メローペが展開した強大な氷魔法をいとも容易く打ち破り、アクエリアスに光と暖かさを取り戻させたのだった。
それは快進撃というか、一方的な蹂躙というか、言ってしまえば炎による氷の虐殺のようだった。
「…………っ」
燃え上がる業火は全てを灰に帰し、等しく焦土にかかる粉に変えてしまった。それは言うまでもなく世間離れの特異な魔法使いによるものだが、氷の悪魔はその火魔法使いの正体を口走る前に、完全に焼き尽くされてしまったのだった。
そうして、メローペは絶命の刻を迎えた。
最初から最後まで意味不明な破壊行動を続けた彼女だったが、体を端から燃やされてジワジワと精神ごと殺されていく途中、なぜか悔し涙を流した。
それがメローペによるものなのか、はたまたマイアによるものか、その答えは誰にも分からないままアクエリアスの雪害攻防戦は幕を下ろしたのだった。
多くの後悔を残して。
ちなみに街を救ったとされる太陽のような男は、後にアクエリアスの王に魅入られ、彼の護衛役として起用されたらしい。




