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A lot of stars  作者: 赤秋の寒天男
第二章 水面の虹
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30話 化けの皮

 イオが宿屋に帰った後は、シロンが入れ替わりで例の木の下へ向かった。

 そして、イオと同じように報酬を問われた。


「バニローさん……ボクは―――」

「―――それは難しいね」


 何を願ったのかは秘密だ。



◆◆◆



 それから騒動の後始末は進み、いよいよイオたちがリブラに帰る時がやって来た。

 もう七日目の朝だった。


「―――と言うことで、マイアちゃんはウチで働いてもらうし面倒も見るから心配しないでね」

「お願いしますね、本当に。それでマイアさんは元の職場にどうやって説明するんですか? 事件のことをありのままに伝えるのは無理でしょう?」

「あ~……何日も戻らなかったら自動で除籍されるんじゃない? ほら、新聞記者なんて全国各地にたくさんいるんだし、私が欠けても問題はないと思うな~」


 そんな訳ないだろ、と内心思ったが、この世界では取材先で魔法事故に遭って死ぬことは、実はよくあるのかもしれない。

 イオは深くは突っ込まないでおいた。


「マイアさん、お元気で!」

「うん! じゃあね、シロンちゃん!」


 適当に別れの言葉を送り合ってから、イオとシロンは牛車に乗り込んだ。

 まあ、牛と言ってもウミウシの方ではあるが。

 車窓からそれぞれ顔を出し、バニローとマイアの見送りに手を振って応えた。


「いつかまた来てねー!」

「たぶん来ないですー! 俺が元の世界に帰る時はちゃんと呼びまーす!」

「悲しいこと言わないでよ!?」


 たぶん来ないというのは、まさしく彼の本心から出た言葉だ。

 と言うのも、次にアクエリアスに向かおうと考える頃には召喚装置はとっくに直っているはずだから。

 それを面と向かって言うのは失礼極まりないが。


「ふう……よいしょ」


 マイアとバニローが、それこそ点になって見えなくなるまでイオたちは手を振り続けた。

 車の中に顔を戻せたのは、出発してから約一分後のことだった。

 アクエリアス滞在中は色々あって、あの人たちは騒がしくて厄介だと思えたが、実際にもう会えないと思うと名残惜しかった。いつかまた会えるだろうか。


「濃い七日間だったな。結局休めず仕舞いだ」

「……災難だったね」

「ホントだよ」


 まあ「寂しいな」と最後に思わせるくらいには、たくさんの経験をさせてくれた街だった。

 メローペとの決戦は予想外だったが、あれも本人の中で解決してくれたようだし、何より死人が出なかったのが良かった。

 もし誰かを殺していたとしたら、マイアはあそこから立ち直れなかっただろう。意識が戻った後も看病はかなり大変だったのだ。


「―――そうだ、リブラに帰ったらさ、また別の国に行きたいんだけど良いかな?」

「アークトゥルスさん次第だろうね。それに、もし召喚装置が直ってたら、イオ君は元の世界に戻りたいでしょ? そことの兼ね合いもあるよ」

「どうだろうな。もう少しこの世界に残っても良いんじゃないかとは思ってるけど……まあ、流石に帰るかな」

「……だよね」


 暗い雰囲気を払拭するためにイオはこの話題を切り出したのだが、それが雰囲気をより一層暗くしてしまった。

 イオのコミュニケーション下手さが出てしまった瞬間だった。


「あー……で、シロンはどうなんだ? 俺の旅先にまた一緒に付いてきてくれたりすんの? 俺は一人じゃたぶん何もできないぞ」

「んー……付いていくんじゃないかな。ボクとしては仕事をサボれるし」

「いや、そっち目的かよ」


 シロンの軽い冗談が陰鬱な空気に効いた。

 もっとも、イオはそれが冗談であることに気付かなかったようだが。


「それで、次はどこに行くの?」

「ああ、リオだったかな。名前を覚えてないや。リオで合ってる?」

「それで合ってるけど……なんでそこに行こうと思ったの?」

「バニローさんがさ、この石の正体を知りたかったらそこに行け、って言ってたから。もしかしてヤバイ国なのか? 結構危険?」

「いや、別に……」


 また雰囲気を暗くしてしまった。これはまさかイオが悪いのだろうか、いや彼は悪くない。

 だって話の流れに沿って情報を出しただけだ。

 悪くない……はずだ。


「ねぇ、イオ君さ」

「なんだ?」

「―――皆と違うって、どう思う? 君は怖いことだと思う?」

「……皆と違うってことは、それは特別ってことじゃないのか? よく分かんないけど」

「それなら、首飾りの石を握ってみて。それから魔法を使う時みたいに力を込めてみて」


 シロンはイオの向かい側に座っていたのだが、突如として立ち上がり、彼の膝まで迫ってきた。

 その時の彼女がどこか思い詰めているように見えたのは気のせいだろうか。


「え……こ、こうか?」

「そう、そのまま」


 彼女が放つ、えも言われぬ迫力に屈して、イオは言われるがままに動いた。

 頼りない動きで首飾りに手をかざし、そのまま意識を集中させるのだった。


「なんか体が少し熱いような……っ!?」


 そしたら、行為に及んでから数秒も経たない内に、ウミウシ車の中に変化が起きた。

 なんと手の中にある石が光を発し始めたのだ。


 これはあの湖での出来事と同じ。急にイオの思いに反応して大量の光の筋を溢れさせた。

 そして、それは数秒間に渡って車内をキャンバスのように真っ白に染めたのだった。


 それから光が収まったのも、息をつく暇もない数秒後の出来事だった。だんだんと視認できる明るさになってきてイオはゆっくりと車内を見渡した。

 身の回りに変化が起きなかったことを確認してから、イオはようやく一息ついて気を抜いた。


「……やっと収まったか」

「イオ君、頭を触ってみて」

「え、どうした急に」


 しかし、収まるや否やシロンが命令をしてきた。

 拒否する筋合いもないので、結局はさっきと同じく操り人形のように動いて見せた。イオは何となしに自分の頭を撫でた。

 そこでとある違和感に気付いた。

 何も存在してはならない場所に何かが生えてきていることを確認して、彼は思わず身震いをした。


「え、え、え……はぁっ!? なんか俺の頭に角が付いてないか!?」


 ここには鏡がないので、はっきりとは言い切れなかったが、確かに指先に異質な感触を覚えた。


 妙に滑らかで太い角が、イオの頭に生えていた。

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