27話 生まれ変わる魂
精霊とは、この世界に五体だけ存在すると言われている幻の存在である。糧は宿主の魔力であり、その一部を摂食する代わりに超次元的な精霊術を授けてくれる。
そんな希少な存在が、どうやら今この部屋に二体も集まっているらしかった。
リブラにいるあの二人を合わせれば、四体の精霊の居場所を確認できたことになる。
「『性』は行方不明だって聞きましたけど、まさかマイアさんが持ってたなんて……信じられません。それに……イオ君がもう一体を……」
「ねぇ、イオ君。私が間違ってるのかな? たぶん君の中にいると思うんだけど」
「いや、そう言われても……」
体の中にいる精霊の出し方なんて知らない。
そもそも、どこで手に入れたのかも分かりやしないのだ。精霊の印象も寄生虫みたいで気味が悪い。
「なんか条件とかあるんですか? どうすれば精霊に選ばれる、みたいな……」
「前の宿主が近くで死んだら精霊が勝手に選ぶよ。対応する体の部位が失われてなかったらセーフ」
「部位……?」
「私のは『性』だから、性器を失ったら精霊はいなくなっちゃうかな。イオ君の場合は耳だけどね」
「耳!?」
『耳』の精霊とは……耳垢の掃除でもやってくれるのだろうか。
そんな感想がイオの頭の中に思い浮かんだ。
「ちょっと待って。その精霊を使えばマイアちゃんを治せるんじゃないかな?」
バニローがいきなり素っ頓狂な提案をした。
治す、とはどういう事だろうか。
「マイアちゃんの裏の人格と話し合うんだ! 精霊の力で心の奥にいるもう一人の人格を目覚めさせるんだよ!」
「……そんな事できますかね?」
「できるよ! きっと!」
イオの疑念にバニローは猛反発。どうやら、どうしてもマイアを部下にしたいらしい。
結局は治療の最終判断は精霊術を受けるマイア側に委ねられるので、イオたちは大人しく部屋の中心にある椅子に顔を向けた。
「……実はそれが狙いだったんだ。ここで生まれ変われるなら、治療を受けたい」
「でしょ? そうと決まったら準備だ、イオ君」
「ええ……精霊の使い方なんて知りませんけど」
「イオ君は私の前に座ってるだけでいいよ。精霊は私が引き出して見せるから」
「そ、そうですか」
成功するかも分からない治療法にイオは反対したが、マイアの顔に表れた決意に気圧された。
ここまで来たら協力するしかないだろう。
まあ、協力と言っても彼女の前に座るだけだが。
「シロン、下に予備の椅子を貰いに行ってくれるか?」
「うん」
「ありがとな……それで、マイアさんはいつまで縛られたままなんだ」
マイアの体は現在椅子に縛り付けられている。
ちなみにメローペが暴れないように、魔法使い用の特別な縛り方が用いられているのだ。両手がピタッとくっつくやり方だ。
そうすることで魔法を使えなくしている。
「―――持ってきたよ」
「ありがとな。ふう、何かよく分かりませんけど……頑張って治してくださいね」
「うん……」
マイアの正面に椅子を置いて、イオは彼女に向かい合うように座った。
ちょうど視線が合うので恥ずかしい。
マイアの奥にバニロー、右側にシロンがそれぞれ視界に入った。
「じゃあ……よいしょっ!」
「うおっ!? これが精霊か……?」
マイアは掛け声と共に、力を込めて手を突き出してきた。
そうすると、不意にイオの体の中からふわっと白い光が飛び出してきたのだった。
その綿のような物体は、辺りをフワフワと漂った後にマイアの体に吸い込まれるようにして侵入した。
「はぁ、はぁ……あぐっ!? んぅ―――」
体をくねらせて荒い吐息を吐いた後、彼女は小さく喘いでから意識を失った。




