24話 もう一人
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降雪地で二人の戦士が睨み合っていた。
一人は体を氷の装甲で覆い、もう一人は氷の武器を携えている。
どちらが先に相手の首を落とすのか、辺りは一触即発の空気に包まれていた。
「マイアさん、どうしちゃったの……」
その戦況を少し離れた建物の陰から見ているのがシロンとイオだ。互いに体を寄せ合って、凍え死なないよう体を震わせていた。
ここまでの寒さになると、もはやシロンの出した火も意味を為さない。
被害を受けずして帰還することは、もはや避けられないだろう。
「マイア……さん? だったっけ? ここは俺の国だ。今すぐ魔法を止めないと命は無いぞ。十秒後にお前がいる場所まで跳んでいくからな」
「……私を殺さ、な……殺すのか?」
「ああ、もちろん。君が止まってくれたら多くの命が救われるんだ」
「だった、ら……やってみろ」
マイアと思われる女性は、バニローに満面の笑みを見せた。いかにも挑発的で不気味な表情だった。
殺害宣告されてなお笑っていられるのなら、それは狂気の沙汰と呼んでも差し支えないだろう。
あれだけ温厚だった彼女に一体何が起きたと言うのか。
「バニローさん! マイアさんを傷付けないでください! ついさっきまではそんな人じゃなかったんです! 何か変です!」
「君の主張を無下にはできない……だけどこの状況だ!とてもじゃないけど信じられないね! 行くぞ!」
氷で作られた青白いトマホークを握り直し、バニローは思い切り跳躍した。
開いていた二人の距離は、ただ一回の息をつく暇もなく、雪が降り散る刹那で縮められた。
「あなたに……興味はない。翡翠色の……瞳の少年、はどこ?」
「さあ、どこだろうねっ!?」
振り下ろされた凶器が再びマイアの命を切り刻もうとする。
しかし彼女は瞬時に両腕を交差させて、氷の小手で重い一撃を受け止めた。
「ふんっ! 脇が空いてるよ!」
バニローは防がれることを予想していたのか、すぐさまトマホークを引き戻して体を空中で横に捻り、その勢いを乗せて脇腹にもう一撃を叩き込んだ。
「芯まで響く、けど……痛みは感じられない」
「クソっ!」
渾身の追撃は彼女の氷の装甲にヒビを入れるだけに留まった。
氷の鎧はすぐに元の形へ戻るので、実質的なダメージは皆無に等しい。
「水はどこにでも……あるから、気を付けて」
「―――っと、マジかよ」
次はマイアが攻撃を仕掛けるターンだ。
彼女は両手を空へ掲げ、無数の氷柱をそこら中に発生させたのだった。
しかも恐ろしいことに、数え切れないほどある氷柱の矛先は、全てバニローの方を向いていた。そうと分かれば予想される結果はただ一つ。
バニローは瞬時に危機意識を張り巡らせて、自分を覆い囲むように氷のドームを生成した。人間の生存本能に由来した高速魔法行使だ。
「突き刺せ、あの男を……貫け」
「く……っ! 耐えろぉぉぉ!」
氷柱は風を切るように、バニローを目掛けて飛び出した。一本一本が氷のドームに捩じ込まれるようにして突き刺さる。
それらはスノードームの核まで到達したのだが、バニローはそこまで甘い男ではない。彼も彼とて無抵抗に殺されるような真似はできなかった。
相手の氷柱が体に触れる直前に自分の氷を鍛え直して、それで何とか無事に生き延びたのだった。
「はあ、はあ……あっぶねぇ……水魔法使いで攻守共に優れてるヤツは、この大陸でも俺とドロフくらいだと思ったんだけど、お前はどこの誰なんだ? バカみたいに強いな」
「わた、し……は……」
両者共に大技を発動し、一旦戦闘は落ち着いた。
すぐに相手を殺せると思っていたバニローは、自分が体験した事をすぐには信じられなかった。なぜなら同じ水魔法使い同士の戦いで彼が負けたことは一度しかないからだ。
しかもその相手とは天上の存在。水魔法の頂点としてリブラの上層部に君臨するあの『水星』だ。そこまでの実力を備える彼と互角に張り合える存在がいるのなら、名前くらいは聞いておきたかった。
薄々感じてはいたのだが、この女はイオたちが知る者とは全くの別人のはずだ。
この女はあまりに恐ろしく、あまりに狂気的だったから。
もうどこにもマイアの面影はなかったから。
「出身は……ずっと遠く、の農村。両親は……私、を置いて死んだ」
「…………」
「私の心は、崩れた。でもすぐに……私の心を埋めてくれ、る存在に出会った」
「…………」
バニローは息を飲んで聞き入った。
そしてそれはイオたちも同じだった。
戦地の影響を受けない建物の陰で、マイアの正気を見極めようとしていたのだから。
「わた、しの名前はマイア……であり、メローペでもある。あの時に精霊を取り込ん、だことで……私は産まれ変わった。人格が増え、たんだ」
彼女は淡々と言った。
しかしイオとシロンは当然ながら、その事実を受け入れることは難しかった。
まさか一緒に寝泊まりしていた人間が多重人格者で、まさか精霊をその身に宿していて、まさか国に災害をもたらした人間だなんて、そんなことは到底信じることなどできなかった。




