21話 不思議な首飾り
「はむ……おいしいねぇ~」
マイアは優しく微笑んだ。
彼女の口の中を果物特有のみずみずしい甘さが満たしていく。糖分と水分を補給することにより、いくらか彼女の不調が落ち着いたように思われた。
「ありがとね」
「いえいえ」
「ボクたちまた外に出ときましょうか?」
「うーん、一緒にいよう。私はもう大丈夫だから」
果物なんかで体調が好転するのか不安だったのだが、運命は良い方向に転がってくれた。
朝方にマイアは一人でいたいと訴えていた。それは人といると頭痛が酷くなるからだったのだが、その症状も無事に取り払うことができた。
「……雨かな」
果物を食べ終えた後、ふと窓の外を覗いてみると分厚い雲が空を覆っていることに気付いた。
彼女は雨が嫌いなのか、なぜかその光景に表情を歪ませた。空をどこまでも目で追っても、雨雲の切れ目を見つけることはできない。
どうやら雨は長く続きそうだ。
「これで一件落着って感じだな」
「そうだね……あ、品物の整理手伝ってよ」
「そうだった。すっかり忘れてたぜ」
シロンがそう言いつつ買い物袋から雑貨を取り出して、マイアの荷物が置かれていない机の端の部分に並べていった。
物は大小様々である。
「いろいろ買ったみたいだね……って、それ結構高かったよね?」
「ああ、これは―――」
マイアが指を差したのは、赤ちゃんの拳ほどの大きさの透明な石だ。それは少しだけ青みがかっており、元の世界でのブルーサファイアなる宝石を思わせる形状を模していた。
「これはバニ……ある人からの貰い物です」
「あ、そうなんだ」
ある人とはバニロー。その青い石は彼からの贈り物である。
ではなぜ石がイオたちの手に渡ってきたのか。その原因となったやり取りは約数十分前に行われた。
◆◆◆
『じゃあ、俺は仕事に戻るよ。側近が仕事仕事とうるさくてね……あ、そうだ』
『どうしました?』
『イオ君、実は渡したい物があってね……』
『……?』
『こ、この石あげるよ! ほらっ!』
『ちょっ!? いきなり投げないで……っと、これ何ですか?』
『その石を握ってみて』
『うおっ、光った。これってこの世界のおもちゃ的な何かですか?』
『いや、おもちゃなんかじゃない。アークに君の事を聞いた時からずっと渡そうと思ってたんだ。大事にしてくれるかな?』
『もちろん大切にします……それで、結局これは何なんですか?』
『さあ? あ、シロンちゃんは知ってるよね? 教えてあげてよ』
『し、知りませんっ! そんなもの……』
『ホント? 君なら知ってると思ったんだけど。まあ、肌身離さず持ってればいつか分かるよ』
◆◆◆
そんなこんなで石の所有権はバニローからイオに移された。それの正体は一切教えられなかったし、教わろうとしてもシロンが頑なに拒否したのだ。
だから言われるがままに、とりあえず体の近くに置いている。
きっとどこかで役に立つのだろう。
「……私が首飾りに加工してあげようか?」
「そんなことできるんですか?」
「うん、昔からそういうの大好きでね。趣味の範囲だけど」
「全然いいですよ! 助かります!」
もしポケットに入れて保管していたら、絶対にどこかで落としてしまうに違いない。
首に掛けておくことができるなら、万が一の紛失を防ぐことができるだろう。
「貸してみて。夕方までにはできるよ」
「すごい早いですね」
「慣れてるからね……二人でお喋りでもしててよ。綺麗に仕上げてみせるから」
「はい」
「……イオ君、荷物整理を手伝ってー」
「お、おう」
イオとマイアが約束を交わしている横で、シロンは黙々と整理を行っていた。それに気付いた頃にはもう手遅れで、彼女は不機嫌そうに顔をしかめていた。
「なあ、シロン……あの石って何なんだ? 気になって夜も眠れないんだが」
「イオ君は元々眠れない体質でしょ。あと、石の事は聞かないで」
「……そっか」
石については何も言いたくないらしい。彼女の逆鱗に触れる前にイオはサッと手を引いた。
机に広げた品物を二人のカバンに詰め替えている作業の途中にシロンの表情を見てみたのだが、どこか浮かない顔をしていた。
やはり複雑な事情があるのだろうか。あれ以上踏み込まなくて正解だったかもしれない。
その後は二人で本を読んだり、余った果物を食べながら街行く人々を眺めたりして、時間が過ぎて行くのを待った。
娯楽の無い異世界で、しかも室内に同性がいない状況。どうせ退屈になるだろうと思っていたのだが案外そうでもなかった。
シロンとの会話はかなり弾んだ。
「よーし、できた!」
「おお! 思ってたより完成度高いですね! 趣味ってレベルじゃないですよ!」
しばらく待っていると、石が首飾りになってイオの元に帰ってきた。
青い石の一部がくり抜かれて紐を通すための穴ができており、そこに通された糸はちゃんと余裕を持たせた長さになっていた。
穴は綺麗に削られておりささくれは見当たらず、店で売られていてもおかしくない完成度だった。
イオはさっそく身に付けてみた。
「なんか……しっくり来ます」
「ははは、良かった」
紐の結び目は石に空いた穴の中に埋め込まれていた。ものすごいこだわりようにイオはちょっとだけ嬉しくなった。
その照れ隠しのために石を小突いてみたら、それに反応するように小さく光ったのだった。




