20話 不安感
「―――っと、目的を忘れるとこだった」
イオたちとの雑談を終えて満足気な表情を浮かべるバニロー。その表情が一瞬にして険しいものへと変貌した。
あまりの変わり様だったので、二人はついつい身構えてしまった。せっかく角が取れてきたところだったのに。
「なんか最近寒いんだよね、今は夏なんだけど。何か知らないかな?」
「さあ、俺たちもちょうど気になってたところなんですけど」
「そうそう、そうなんですよ! だからボクたちは図書館で調べ物してて……」
「ふーん……都民視点でも特に変わった様子はない……か」
「ちょっと待ってください。今、都民視点って言いましたか? 勝手に俺たちの見解を総意にしてもらっちゃ困りますよ」
イオは思わず止めに入った。
この飄々とした男、バニローは当然かのように二人の予想を異常気象への考察に取り入れた。嘘をついている可能性や情報が正確でない可能性などを考慮に入れるべきだと思うのが筋だろうに。
「普通に意見聞けるのはイオ君だけなんだよね。ほら、俺の知り合いって大体がヨボヨボで、ずっと王宮に籠ってる真面目クンばっかなの。だからイオ君に意見聞こうかなって」
「そ、そうなんですか……それで、バニローさんの方は何か情報はあるんですか?」
「ないね」
バニローははっきりと言い放った。
これだけ諦めが良いと、逆に清々しさを感じる。
「……ってのは冗談で、分かってるのは三つだけ。最近起こり始めたということ。夜の間だけ寒くなっているということ。そして日を増すごとにどんどん寒さが酷くなっているということ」
「それだけ……ですか」
バニローはイオにもシロンにも目を合わせずに、ただ焦りを含んだ視線を地面に泳がせている。王としては気が気でないといった感じなのだろう。
しかし、その不安をあえて明かさないところに彼の芯の強さが表れていた。
「どうしようかなあ……まあ、情報がないならまた明日にしようかな。じゃあね」
バニローはそう言って、いくつかの水泡と共にどこかへ飛び去っていった。
彼にしては珍しく大人しかった。
「誰も原因が分からないんだな……どうした?」
「ううん、別に」
―――もしかしてイオ君と関係あるのかな?
シロンはそんなことを考えていた。あまりに思い詰めていたために表情に出てしまっていたらしい。
今は記憶を失ったイオの療養中なので、彼女は彼の『不死』を狙った人間が何らかの方法でアクエリアスに異常気象をもたらしている可能性を否定できなかった。
(でも、それなら一日で詰めて来るはず……隙だらけで変なの)
「おーい、そんな所に突っ立ってないで行くぞ! マイアさんが待ってる!」
「あ、うん! 今追い付くから!」
いつの間にか遠く前にいたイオの姿を捉え、シロンは急いで走り始めた。
二人がこの国に来てからはずっと晴れが続いていたのだが、ふと空を見上げてみれば分厚い黒雲が覆っていたのだった。




