19話 薄氷
二人は噴水を訪れた後に無事に目的を達成した。
マイアに元気が出るようなお土産を買って帰ることを成し遂げたのだった。
「リンゴにミカンにイチゴ……?マイアさんってどれが好きなのかな?」
「知らね……ってか、この世界にも俺たちの世界と同じような果物があるんだな」
「そうみたいだね。イオ君はどれが好き?」
「実はどれも苦手なんだ」
某哲学者は愛する女性と結婚を考えた時に、それのメリットとデメリットを書き連ねてから、結果としてどちらに傾くかで良し悪しを判断したらしい。
イオの判断もその方法で決められたものだ。
果物の良いところは食べやすくて甘い味がすること。悪いところは後味だ。果物を食べた後に口の中にざらついた感触が残るのだ。それとたまに酸っぱいヤツも混ざってること。
「終わり悪けりゃ全て悪しだ。あの感じは分かる奴には分かる」
「ぼ、ボクは分かんないかなぁ……」
イオの独特な感性はシロンには受け入れづらかったらしい。彼女は苦笑いをしてみせた。
その時だった。
「わっ!?」
「っ! 危ないっ!」
シロンが地面のタイルに足を引っかけてしまい、袋一杯の果物を地面にばらまいてしまった。
「や、やっちゃった……」
「三秒までならセーフだ! マイアさんに食べさせる前にちゃんと洗うけどな!」
咄嗟にしゃがみ込んで、地面に散らばった果物を集める二人。
さっきと違って周囲に人影はなかった。
しかもさっきと違ってたくさんの果物を拾わなければならなかった。
「こりゃ辛いな」
「ごめん……」
「―――ふむふむ、困っているなら助けよう! 麗しくも雅なこの俺が!」
シロンに返事をしたのはイオではなかった。
その声はイオのものより大きく、そして何倍も明るかった。
「なにかに行き詰まって自分が嫌になったら、まずは大きく深呼吸をしてみよう! バニロー・フォーマルハウト! 有給休暇の術を利用して参上!」
相変わらずの意味不明な口上と共に、あの男がどこからともなくやってきた。
そしてどこからともなく水を出現させた。
「お、おぉ! すげぇ!」
「すごい……っ!」
そして水を見事に操り、地面に転がった果物のを一瞬で集めて見せたのだった。
空中に浮いた大粒の水玉から、果物がポトンポトンと袋に落とされていった。
しかも果物に付いた汚れは洗い流され、綺麗に乾かされていた。
「魔法ここに極まれり……って感じだな」
「いや、俺よりドロフちゃんの方がヤバイから」
「いや、せっかく誉めたのに急に真面目になるのはやめてくださいね」
イオの戯れ言にバニローが真顔で答えた。
急に態度が変えられると、こちらとしてもかなり怖いのだが。
そうやって冗談混じりのやり取りをしていたところ、イオの隣で驚嘆の声が上がった。
「な、なんでこんな所に国王が……!?」
「身構えなくてもいいぞ。この人は国王の皮を被ったピエロだからな」
シロンのような一般人の反応だと、王が王だと再認識できて新鮮だ。
しかしイオは知っている。
この男がやって来る時は、災厄の時なのだと。
緊張で体が動かないシロンと、それをネタに爆笑するバニロー。イオは二人の様子を見守りながら、凶兆に身を震わせたのだった。




