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A lot of stars  作者: 赤秋の寒天男
第二章 水面の虹
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18話 ここは観光の名所

 まだ年若く背の低い二人が並んで歩いている。

 周囲には背の高い大人が溢れるほどいるので、ちょうど彼らは人海に溺れている形になっている。


「やっぱすげぇな。流石は観光都市だ」

「そうだね。目的地に向かうだけでも一苦労だよ」


 イオが波を掻き分け、その後ろにシロンが続く。

 途中ではぐれてしまわないように、と前を歩く彼の背中をちょこんと掴むシロンの姿は健気だった。


「んっ……わっ!」


 しかしシロンが誰かの足に引っ掛かってしまったのか、道の真ん中でこけてしまった。

 自然と通行人の注目を集めてしまう。


「おやおや、お嬢さん大丈夫かい?」

「君、この子の連れかい? 彼女さんは足を怪我してるみたいだから軒下まで連れてってやりな。できねぇなら手伝うぜ」


 まず最初に声をかけてきたのは老婆で、その次に中年の男も近づいてきた。

 シロンとイオの事を心配してくれたらしかった。


「あはは、ボクは大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

「いいえ~このくらい構わないわよ。助け合うことが大事なんだから」

「おうよ」

「そう……ですよね。ありがとうございます。イオ君、ちょっと掴まるね」

「ああ」


 二人は人の流れから離れて、近くの店の前のベンチまでズリズリと歩いて向かった。シロンは片足をダメにしてしまったので、渋々イオに助けてもらっていた。

 ベンチに着いてから彼女の膝を見てみると、地面に擦り付けられたであろう部分が赤く滲んでいるのが分かった。

 とても痛々しくて見てられない。


「うーん、少しジンジンするけど歩けないことはないかな」

「……俺が治しておこうか?」

「え? まだ魔法は使えないはずじゃあ……」

「いやいや、傷痕が残ったらまずいだろ? そうなるくらいならやるしかないし、この傷は結構深いみたいだし。それに道行く人にこんな傷は見せられない。見た目が酷いからな。ハンカチとかあったら巻いてたんだが」

「イオ君ってハンカチ持ってないんだ」

「う、うるせぇよ! 召喚されてすぐなんだから持ってる訳あるか!」


 イオはなぜハンカチを携帯していないのか?

 答えは「この世界に来てからハンカチを支給されていないし、買う暇もなかったから」だ。

 決して普段からハンカチを携帯する習慣がないという訳ではない。彼はその部分を明確に伝えた。


「どうなるか分かんないけど、まあ見ててくれ」

「傷を拡げたりしないでね」

「どう転んでもそうはならないだろ」


 互いにしょうもない軽口を叩き合った後、ベンチに静かな時間が訪れた。

 イオは右の掌に意識を集中させて、それをシロンが見守っていた。そして魔法の構えを見せてから数秒経った頃、彼の掌に緑色の燐光が集まり始めた。

 バニローと見たあの光と同じものだった。


「……治れ」


 静かに祈るようにシロンの膝を撫でた。

 そうすると驚くべきことに、傷がみるみる内に塞がっていったのだった。ビロンと剥けた皮膚がピタリと元の場所に癒着し、真っ赤な傷は跡形もなく消え去った。

 イオは再度の魔法行使を成功させて見せた。


「え、本当に治りやがった。やるじゃん俺」

「すごいじゃん!」


 シロンが称賛の言葉をイオに浴びせつつ、元気よくピョンと立ち上がった。

 無事に痛みは晴れたようで、明らかに彼女の動きが軽やかになっていた。


「……お礼とかした方がいいよね?」

「それを本人に聞くのかよ。別にそんな間柄じゃないし要らないぞ」

「言うと思った」

「おい、それなら最初から聞かなくていいだろ」


 しゃがんで治療に専念していたイオ。その背後に回り込んだシロンはなぜか勝ち誇った表情を見せてきたのだった。どうやら彼の無欲な性格を見越して、あらかじめ断られると分かっている選択肢を用意していたらしい。

 そしてイオはまんまとそれに引っ掛かった訳だ。一丁前に「お礼なんて要らないぜ」なんて言ったのがアホらしく思えたのだった。

 短くもない付き合いなので、イオの行動を完璧に予測できて満足気な様子。


「ふふっ、そんなイオにボクからお礼をしたいと思います。ちょっと寄り道しよう」

「……そう言うなら、行ってみるか」


 イオは重々しく立ち上がり、既に歩き出しているシロンについていった。二人は大通りから外れて北西の方向に進み始めた。

 そしてしばらく歩いていると、また人がたくさんいる空間にたどり着いた。そろそろお礼とやらが視界に飛び込んできてもおかしくないのだが。

 わざわざ時間をかけて向かうほどの大層なものなのだろうか。


「こっちの方も人が多いんだな。さっきの大通りに負けず劣らずって感じだ」

「ふっふっふ、それもそのはず。この先には観光の名所があるからね」

「観光の名所?」


 そう言えば、アクエリアスは都市国家であり観光都市でもあることをすっかり忘れていた。温泉や綺麗な湖だけではその名を背負うことはできないだろう。

 そうなると、もっと何か素晴らしい観光地があってもいいはずだ。

 そんな考察をしながら歩いた先に、イオは大きな建造物を発見した。


「なんだアレ!? 噴水か? いや違うか? あんなに大きいのは……」

「あれこそがこの街の名物! その名もガニメデの大噴水だよ!」

「いや噴水かよ!」


 ここまで大きくて華々しい噴水は生涯に一度も見たことがない。そう真っ先に言い切れるほどの壮大な噴水がそこにあった。


「しかもカップルが多いな……居心地が……」

「まあ、観光地だからそういう人たちも多少はいるさ。色気付いてるのは我慢してね」


 健全な観光地ならば上下満遍なく客層をカバーしていると思うのだが、なぜか近くにいるのは男女のペアばかりだった。

 近くにいやらしい観光スポットでもあるのだろうか。イオはそう思った。


「ねえ、もっと近付いてみようよ」

「そうだな。俺も近くで見てみたい」


 二人は人と人の間をすり抜けて、ジワジワと噴水との距離を詰めていった。

 近付けば近付くほど、その見上げるような噴水の大きさを実感できた。


「イオ君、コイン持って」

「いきなりなんだよ」

「噴水にコインを投げ入れたら願いが叶うって言われてるの。でも人が多すぎて一瞬しか近付けないから頑張って入れてね!」

「マジか、どのタイミングで投げたらいい!? もう少し待つか!?」

「……今だよ!」

「今ぁ!?」


 イオは手渡されたコインを咄嗟に投げ飛ばした。

 コインは美しい曲線の軌道を描き、噴水の中に着水する―――と思ったところで、彼の投げたものが誰かのものと空中で衝突してしまった。

 イオのコインは弾かれた衝撃で噴水の外へ。そして横から槍を突くようにやって来たコインは無事着水したのだった。


 その金属製のコインは少なからず重量があるために滞空時間は一瞬だと考えられる。物体の落下速度は質量によって変化するものではないが、持ち上げるエネルギーは違ってくるからそれを考慮してのことだ。

 つまり空中で衝突するんだったら、ほぼ同じ瞬間に投げられたコインしかあり得ない。


「シロン……お前のとぶつかっちまったな」

「ご、ごごごめん! もう一回ボクのコインあげるからっ!」


 シロンもそれを投げた時にぶつかってしまった事が分かったのだろう。イオが視線を向けた時には、申し訳なさそうな表情になっていた。


「いや、大丈夫だよ。俺のは別に大した願い事じゃないしな」

「そ、そう……?」

「ああ。それで、シロンは何を願ったんだ?」

「えっと……秘密!」

「何だそれ」


 互いに何を願ったのかは知らないまま。

 しかし何となくだが、それが二人にとって最善の選択になるだろうと思ったイオであった。

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