6話 冷たい未来
「―――――?」
何かがおかしい。
喉の奥から言葉を吐き出そうと奮闘しているのに、こちらの思い通りにならない。
しかし、声を押し留められているような苦しさも無ければ、声を奪い取られているような喪失感も無い。
「―――――」
まるで、初めから声が存在しなかった世界みたいだ。
「―――――」
いやしかし、夜にしては暗すぎやしないか。まるで世界が墨に染められたみたいだ。
とても暗くて、歩けたもんじゃない。
「―――――っ」
いや、暗いだけじゃなかった。明るい場所が先の方にあった。まるでライトアップされた劇場みたいな場所だった。
そこに誰かがいる。まずは身を縮め、急いで物陰に隠れよう。
絶対に見つかってはいけない、そんな気がする。
「―――――?」
どうやら二人いるみたいだ。顔はどちらも見えないけど。
一人は男で、背が少し高い。もう一人は女で、怪我をしているみたいだ。
男の背中側に女が倒れてこんで、彼女が男を見上げている形だ。
「―――――!?」
そんな感じで、じっと成り行きを見ていたら、後ろから火の手が迫っていることに気がついた。
ヤバイ、どうしよう。熱いし、結構怖い。
「っ―――――」
ダメだ、この熱さには耐えられない。
逃げる方向は一つだけ。明るい方に出るしかない。
すぐにでも走り出そう。向こうにいる男に気付かれてもいい。
その時は、彼を突き飛ばして逃げよう。
「―――――!」
空気を肺に引き込んで、腕を必死に振って、地面を抉るように蹴る。
しかし、まだどちらも気付いていない。
このまま彼らをどかして……いや、待て。よく見たら、男の胸の辺りが光っているではないか。
一体何の光だ。
「―――――っ」
って、やられた。男が何かを放ってきた。
このまま逃げられると思ったのに。
男の放った何かが体を蝕んでいく。痛いくて、かなり苦しい。
マズい、これでは死んでしまう。
意識が飛ん――――
「あぁあああああああぁぁぁああ! っはぁ! っはぁ……ごほっ! ぜぇ、ぜぇ……」
イオは慌てて周囲を見る。どうやらここは元の異世界のようだ。あの意味不明な暗黒空間ではないらしかった。
どうやら、やっと戻って来られた。まるで夢から覚めた気分。
夢の中だと、自分が置かれている状況の異常さに気づかないのに、起きた途端、夢の内容を思い出して冷や汗が吹き出てくる。
何だか、嫌な感覚を味わった。
「はぁ……はぁ……」
そうだ。シロンから、泉に突き落とされたのだった。