15話 記憶の余波
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アクエリアスでも有数の大図書館に訪れた一行。
マイアは私事でそこから離れ、イオとシロンは二人きりで図書館を堪能することになった。
とは言っても、イオに異世界の言葉など読めるはずもなく、通訳を挟んで制限付きの探索を行うことになったのだが。
そんなお助けキャラであるシロンの左右に揺れる後ろ姿を眺めながら、イオは本棚の間を縫うように進んでいった。
「どうしたの? そんなに黙りこくって」
「いや、図書館だから静かにしないとだろ?」
視線が背中から徐々に尻の方に下がっていったのがバレたのかと思った。
こうして見るものが特にないと、無意識の内に人の体をジロジロと見てしまうものだ。
イオは心の中で自分を強く戒めた。
「―――ここだね」
シロンの足が急に止まったのでぶつかりそうになったが、無事に目的の場所に到達できた。
ここでアクエリアスの気候急変の謎を読み解こうという訳であるが、二人にそれができるのか。
「ま、分からんことは素直に調べるのがいいよな」
「だね」
昨晩の下痢を思い出して、イオは気を引き締めた。
そう、自分を追い詰めた寒気の正体を掴んでやる、と強く決意したのだった。
「でも、寒かったのって本当? ボクはずっと気付かなかったよ」
「うーん、お前って火魔法が使えるんだったよな? 知らない間に暖まってたんじゃね?」
「そうかなぁ」
自分で言っておいて「そんな訳あるか」とイオは思ったが、魔法についての詳しい知識は持ち合わせていないので決めつけるにはまだ早い。
本当にシロンだけ暖まっていた可能性はなきにしもあらずだ。だって、あの時はイオもマイアも一階にいたんだから。
「じゃあ、これ読んでくれ」
「うん」
本棚から本を取るのは、身長が高いイオの仕事。
本を読むのは、言葉が読めるシロンの仕事。
お互いが助け合う形になっている。こうやって情報を掴み取り、謎を解決していくのだ。
「こういう共同作業って、この世界に来てから初めてじゃないか? 今までなかったよな?」
「……うん」
イオはシロンの暗い反応を見逃さなかった。
しかし、何故そのような反応を返したのか全く分からなかったので放っておくことにした。どうせ聞いても「いや、なんでもない」と濁されるのがオチだろうから。そんなタイプの反応だった。
そんな感じで、心にしこりを残したまま彼女の音読は次へ次へと進む。
やたら綺麗で透き通るような声だったので、イオは苦もなく聞き流せた。
「……ふむ、どうやらこの地域で急激に気温が下がることはないみたいだな」
イオが手に取った本によれば、アクエリアスで過去に寒冷化が起きたことも、ましてや異常気象が発生したこともなかった模様。
ここの大気は一年中安定しているようだ。
調べただけ無駄だったか。
「収穫あると思ったが、これだけか」
「肩透かしをくらった感じだね。ボクたちさ、どうせ暇なんだし他の本も読んでみようよ」
「……そうだな」
せっかく足を運んだのに、望む結果は得られなかった。正直ちょっと残念な気分だ。
もちろん、今までの行動を否定するつもりはないのだが、ここまでやって来たんだから成果は欲しかった。
とまあ、そんな気分を入れ換えるべく、イオが次に手に取った本は―――
「やっぱり全然読めねえ」
「うわ……これ『獣化の科学』だ」
厚い毛皮に包まれた優しい肌触りの装丁の本。
他に置いてある本と特に遜色ない。そんな至って普通の本だった。
ただ、シロンの反応がゲテモノに触るようなものだった点だけが少々気になるが。
「そう言えば、街に獣人的な存在がいたな。この世界では魔法と同じように当たり前な感じ?」
「……獣人って言い方は嫌がる人もいるから、その辺は十分に注意してね」
「そ、そうなのか? 悪かった」
さっきからシロンの様子が変だ。
少なくともイオの目には、平常心を忘れて取り乱しているように見える。
彼女は焦りを隠すように一度咳払いをした後、本に書かれた文を読み上げ始めた。
「古の時代から獣人は存在しており、全人類に少なくとも一種類以上の獣の血が流れていることは周知の事実だ」
「……ふぅん」
「今回取り上げる内容は、獣化に必要な獣石の体積と被験者の獣因子の割合の関係である。被験者の種族は様々で犬、蜥蜴、鳥など様々な―――」
そこには獣化についての実験が詳細に書き残されており、この世界の事をよく知らないイオにも分かりやすい内容になっていた。
その上、シロンがスラスラと掻い摘んで読み上げてくれるので、ストレスなく聞き続けられた。
だがしかし、一つだけ気がかりな事があった。
(この本、結構分厚いんだが……どこで止めたらいいんだ?)
すっかり読み聞かせに没頭しているシロン。
そんな彼女をどのタイミングで止めたらいいのか、今のイオには判断しかねたのだった。




