13話 予定の話
イオは腹痛に見舞われながらも、何とか無事に二日目を乗り切った。
あの後はマイアと一緒に部屋に戻り、そのまま三日目の朝を迎えたのだった。
「おはよう、朝だぞ」
「……はや……起きるの」
窓の外に煌々と輝く朝日を確認した後に、イオはシロンを起こすために彼女の布団を覗き込んだ。
しかし、彼女はうっすらと瞼を開けてから、またすぐに閉じて二度寝しやがった。
病的に朝に弱いのには何か事情があるのか。
「んぅ、寒いのは……苦手なん……ぐぅ……」
「誰だって苦手だよ! 起きろ! マイアさんが待ってるぞ!」
「うひゃうっ!? 心臓止まっちゃうよ!!!」
どんな事情があろうがイオの知ったことではない。
彼は無慈悲に残酷に腕を滑り込ませ、幸せそうに眠りこけているシロンの布団を剥ぎ取った。
そしたら、当然だが彼女は甲高い叫び声を上げて、微睡む人々の鼓膜を刺激したのだった。
どうやら本当に起きるのが嫌だったらしく、シロンはすぐに布団を取り上げてベッドに踞った。
その様子を見かねたマイアが口を開く。
「ふ~ん、ずっと寝てるつもりなんだ~。それなら私たちだけで外出しちゃおっかな~。シロンさん、眠たいみたいだし」
「えっ、さっき三人で行くって――――」
「私たち二人で観光を楽しんじゃおっかな~。どうしよっかな~」
「……ボクも行く……待って」
ムクリと起き上がったシロンを見て、マイアが「してやったり」といった感じで笑った。
どうやら、わざと二人きりで外へ出向く旨を伝えてシロンをベッドから誘きだす作戦が成功したらしかった。
この二日の滞在で、三人は互いについて順調に理解を深めていた。その一つがシロンの性質だ。彼女は朝に弱くて、一人でいることが苦手というもの。
イオとマイアは温かい目でシロンを見守りつつ、三人で部屋のテーブルについたのだった。
「今日はどこに行く?」
「あ、昨日見つけた店が――――」
「そうじゃなくて……ほら、どこか見学していかないのかなって。アクエリアスは面白い場所がたくさんあるし。管理局の人たちはそういうの好きでしょ?」
「あー……朝飯食べながら考えてみます」
確かに言われてみれば、この二日間での主なイベントと言ったら食事と入浴しかない。それと宿屋での惰眠だ。
なんと薄味な異世界生活なのだろうか。どうせ召喚装置が直ったら元の世界に帰るのだから、今はやりたいことをやっておくべきだろう。
そんな決意を胸に、イオは朝霧に包まれた街並みを眺めながら考えを巡らせる。
「……そう言えば、昨日の夜メチャクチャ寒かったんですけど、そういう土地柄なんですかね」
「ふあぁ……気付かなかったよ……」
「お前はグッスリ寝てたよ」
「え、ボクの寝顔見たの」
「ああ、めっちゃ不細工になってたぞ」
「……気候については分からないかな。どうしても知りたいなら図書館に行ってみたら」
マイアは髪の揉み上げを指先でクルクルと弄りつつ、視線を泳がせながら答えた。
しかし、そう言いつつも空いた手で作業を続けており、イオたちのために黙々と朝食を用意してくれているのだった。
「図書館とかあるんですね……懐かしいなぁ」
「イオ君って元の世界では図書館に通ってたの? そんな風には見えないけど」
「いや、通うなんてそんな……なんで懐かしいとか言ったんだろ」
「……なんでだろうね」
イオの何気ない発言にシロンは引っ掛かる部分があるようだ。だが、その複雑な感情を含ませた視線には、イオもマイアも気付けなかった。
それから少しだけ沈黙があり、やがてテーブルに小皿がいくつか運ばれてきたのだった。
朝食の時間だ。
「そうだ……昨日はすみませんでした。トイレが長引いてしまって。待つのは辛かったですよね?」
「いいよそのくらい。と言うか、あの時のイオさんの顔はホントに必死だったね」
「そりゃそうですよ……あと少しで――――」
「イオ君、ご飯中だよ」
「あっ、すまん。あと少しで漏らすところだった」
「……それわざと?」
漏らすは漏らすでも、前半に言いかけた「漏らす」の意味と後半の「漏らす」の意味は全く違う。
ここに誓おう。イオはわざと汚い言葉を発した訳ではないし、食事中にアレを連想させたかったわけでもない。
だからこそ、すぐにシロンに謝った。
「そんなことより、早く食っちまって行こうぜ。その図書館とやらに」
「もうちょっと寝ようよ……」
「お前は寝すぎだ」
ペロッと皿の上の料理を平らげて、イオは女性陣の顔を交互に見た。マイアは肯定の意を込めて微笑み返し、シロンはどこか不服そうに睨んできたのだった。




