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A lot of stars  作者: 赤秋の寒天男
第二章 水面の虹
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11話 人と人

お久しぶりです

異世界に飛ばされてました

 のぼせ上がったバニローを介抱するイオ。


 しばらく水を飲ませたり、うちわで扇いだりしていると、見覚えのある顔がズカズカと脱衣場に侵入してきたのだった。

 イオの顔触れに大きな安堵を覚えた。


「君、本当にすまなかった。これで黙っていてくれないか」

(保護者が来たか……)


 バニローの側近と思われる黒装束たちが、ジャラジャラと音がする袋を差し出してきた。中身は考えるまでもなく恐らくアレ。

 しかし、一体全体何を黙っていればいいのか。

 イオはしばらく思い悩んだ。


「……君にとって、彼の印象は最悪だろう」

「もちろんです」

「し、しかしだな……国民からは完全無欠という言葉を体現したような模範的な人物として慕われているのだよ。しかも、まだ彼は王の座に就いたばかり。せっかく取り繕った人物像を壊したくないのだ」

「わりと重い話ですね……でも、そのくらいなら金なんか貰わなくても黙ってますよ」

「念のためだよ、念のため」

「念のため? そ、それではありがたく頂戴いたします……」


 袋の中に詰まった金の価値は分からない。しかし、この重量感からなんとなく推測できる。

 ……これは管理局から受け取った小遣いより断然多いと思う。

 それを想像したイオは、思わず鼻息が荒くなる。


「では、さらばだ。異国の優しい人よ」


 黒装束はぐったりしたバニローを肩に抱え上げ、猛スピードで温泉から走り去ったのだった。

 この超人的な走行速度も、魔法の力によるものなのだろうか。


「はぁ……」


 台風の目であるバニローと別れてから、ようやくイオは服を着替えることができた。さっきの応急処置中はタオル一枚だったので、今さら服を着ようが肌寒いことに変わりなかった。

 それから、ボーッとしたまま脱衣場を抜けて、さっき貰った金でフルーツ牛乳みたいなモノを買って、何気なく窓から外を眺めた。

 チビチビと飲み物で唇を湿らせつつ。


「って、もう昼か……アイツのせいで時間が吹っ飛んだな……」


 いつの間に太陽は空高く昇っていた。どうやらバニローは時間を消し飛ばす魔法使いだったようだ。

 彼はイオから全てを奪い去り、大きな喪失感だけを残して去った。


「帰るか」


 そんな感じでイオは温泉宿を抜けたのだった。



◆◆◆



 それにしても暇だ。

 元の世界で、イオは時間に追われるように日々を生きていた。

 平日は学校に行ったり行かなかったりして、休日は習い事や探検に出掛けて……まあ、そんな空虚な時間を過ごしていた。

 いつか時間に囚われない自由な暮らしをしたいと望んでいたのだが、こうしていざそのような状況に身を置いてみると本当に暇だ。

 やはり適度に忙しいくらいが人生幸せなのかもしれないな、とイオは思った。


 そして、そのことを実感する度に元の世界が恋しくなってくる。

 心にポッカリ穴が空いたままシロンたちが待つ宿屋に帰ったのだった。その時の彼の背中はどこか物寂しそうで、いつもより小さく見えた。


 受付のおっさんに挨拶をして、階段をギコギコと鳴らしながら上がって、宿屋の二階の一番奥に向かった。


「ただい……何やってんの」

「イオ君っ!? 入ってきちゃダメ!」

「あ~帰ってきた! ねえねえ入って入って!」


 目的の部屋に足を踏み入れた瞬間、正反対の二つの命令が耳に飛び込んできた。

 そこでイオの頭は無事混乱した。バニローによって判断力を削がれていたのも一つの大きな要因だったのかもしれないが、とりあえず待つということができなかった。

 そう、一瞬の内に判断がつかなかったので、イオは自分の目的を尊重して堂々と部屋に入った。

 と言うか、片方は「入れよ」と言ってきたんだから別に問題はないだろう。


「……で、何だよ」


 部屋の中では、やたら可愛らしい服を着させられたシロンが、頬を赤らめさせたマイアと揉み合いになっていた。

 モノトーンのフリルスカートとスカイブルーのジャケットがよく似合っていて可愛らしく、そして想像を絶するほどに騒々しかった。

 一難去ってまた一難、とはこういうことを指すのだろう。イオは白目を向いて呆れた。


「疲れたから寝るわ。どうせ眠れないけど」

「逆にそこまで興味を持たれなかったらボクでも傷付くよ!?」

「も~せっかくイイ感じの服を買ってきたのに~」


 ベッドに倒れ込もうとしたイオの体を、マイアとシロンがガッチリと掴んで引っ張り上げた。

 もはや彼の心は荒れ果てた砂漠地帯のよう。乾きまくっているので、そろそろ潤いが欲しいところだ。

 しかし、安息とは与えられるものではない。自分で作るものだ。待っているだけではダメなのだ。

 だからこそ、イオは心を入れ換えて、彼女たちと大人しく接することにした。


「……俺が温泉に行ってた間に二人で買い物に行ってたんですね」

「うん、それでどう? 私の洋服のセンスは悪くないでしょ?」

「やめてくださいよ、マイアさん! イオ君も気にしなくていいから! ボクはこういうの慣れてないし、そんなに似合わないと思うし……」

「いや、結構似合ってると思うぞ」

「……ほ、本当に? そう言われると結構嬉しいかな、えへへ」

「ああ、だからそういうことにしといてくれ。俺は横になりたい」

「ほ、誉めるならちゃんと誉めてよ!」


 イオは別に眠たいわけではないし、眠ることができる体でもない。ただ、騒がしい環境から一歩でも身を引きたいという意志は確かにあった。


「今のボクを見てどう思ったの? 教えて!」

「感想は? ねえ、感想は?」

「…………」


 耳を塞いで顔を枕に押し付けたのだが、どうにも二人の女の声を遮断することはできなかった。

 まあ、別に嫌な気分はしなかったのだが。

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