6話 眠れる夜
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――――ああ、全く眠たくならない。
イオは今現在自分の腕を枕にして、壁を眺めながら寝ようとしているのだが、全く眠気がやってこない。
おかしい。普通は眠れるはずなのに。
(あれか? 自分の家以外では落ち着けないから眠れないってヤツか?)
寝返りを打ったり、あくびをしたり、いろいろ試してみたのだが、どれも効果はない。
やはり全く眠くならない。
そんな時、扉をノックする音が聞こえた。
片方は女性の声、もう片方は少女の声。イオはその可愛らしい音色からシロンたちが帰ってきたことを察知したのだった。
待たせる間もなく扉の鍵を開けに向かった。
「ただいまー。あれ、イオ君まだ起きてたんだ」
「なんか眠くならないんだよ。あ、別にお前らの帰りを待ってた訳じゃないぞ」
「そ、そう……」
旅疲れを温泉で癒した二人が、髪を少しだけ湿らせて宿屋に舞い戻ってきた。
柑橘系の香りがする石鹸を使ったのか、近くにいると気分がスッとした。しかも、頬を赤らめた姿が不覚にも何だかいやらしく見えてしまった。
今更だが、こんな女たちと一緒に寝泊まりすることになるのか、とイオは腹を括った。
しかし、そんな思春期男子の色妄想を置き去りにして、シロンは彼の不眠症状に表情を固くした。
彼女はその症状が『不死』によるものだと分かっていたので、拭えない後悔を再び意識した。
そのすれ違いを横から見ていたのは、温泉に大満足した新聞記者のマイア。
彼女は二人の間に流れる妙な空気を打ち払うために、小さな助力をしたのだった。
「ごほん……ねえ、元気にしてた? 一人は寂しかったでしょ?」
「別にそうでもないですよ。それでどうでしたか? 温泉の居心地は」
「もう最高だったよ~。イオさんも一度は行った方がいいよ。そうだ、いつか私が案内してあげよっか?」
「ああ……俺は明日でいいです。あと一人で行きますんで気遣いはいらないですよ」
「……そう」
イオは冷たい態度を取っている訳ではない。
これはあくまでも天然だ。自然と人に嫌われるような素っ気ない態度を取っているのだ。
これには思わずマイアも苦笑い。取り付く岸を失った。
それからは特に何も起こらなかった。
イオは夜に向けて自分の理性を高め、シロンは脳裏に蘇った過去の憧憬を必死に掻き消そうとしていた。
浮かない表情の彼女は、顔を枕に埋めて早くも寝る姿勢を取った。空いたベッドに体を投げ出すようにして勢い良く沈み込んだ。
「そう言えばマイアさんはどこで眠るんですか? ベッド両方とも貸してくれましたけど」
「ずっと起きてるよ。まとめなきゃいけない収穫がいっぱいあるの」
収穫とは、恐らく取材で得た最新の情報などを指しているのだろうか。
マイアは宣言通りに黙して机に向かい、その上にバッグを上下逆さまに置いた。
バラッと吐き出された書類や印付きのメモは何だか退屈そうに身を傾けていた。
「さてと、どこだったかな~……」
マイアは日中の陽気な雰囲気と反対に、落ち着いた真面目な雰囲気を纏った。
それが意外だったので、イオはベッドの中で少しだけ驚いた。
それからは、ペンを走らせる微かな音が、聞いている側まで気が引き締まる音が響くのだった。
「……イオ君、そろそろ寝よ」
「っ、そうだな」
マイアが再び喋り始める様子は見られなかったので、残された二人は大人しく寝ることに決めた。
滞在一日目、無事生存




