5話 泉と太陽
夜の闇が一層濃くなる頃。
食堂を出た二つの影は、とある場所へ向かっていた。
「実はこの町には観光名所があってね」
どこか自慢気な態度で、その少女―――――黄金の髪に深紅の瞳を持った美少女であるシロンが語り始める。
「聞いただけだと、それって完全に心霊スポットだと思うんだが」
「そんなことないってば」
シロンと並ぶのは、茶髪に緑眼の少年イオだ。
これから向かう先は、彼にとって良い印象を受ける場所ではないようだ。
というのも―――――
「泉に顔を突っ込むんだろ? 幽霊か何かに引きずり込まれないか心配なんだが。しかも、詳細は行けば分かる、って怪し過ぎる」
「そこに行けば、有益な情報を得られるかもしれないよ? もしそうなれば、君はボクに感謝してもしきれないほどの恩を感じて、泣きながら―――――」
「そ、そんなに凄い場所なのか? それだけ言うなら信じなくもないが……」
軽口を叩くシロンに対して、イオは何かと不安を隠せない。何せ、その泉は暗い林の中にあって、条件を満たす者が近づくと淡い光を放ち、その者に何かを見せるらしい。
何を見せるのかについての説明は一切無かった。
「で、その『何か』って言うのは?」
「それはね……その人のsごっほぉえぇっ!」
「お、おい! 大丈夫か!? 喉に鶏肉を詰まらせたか!?」
「……ああ、もう大丈夫…………やっぱりダメかぁ」
(どゆこと?)
謎の発作を見せ、危うく鶏を吐き戻しそうになったシロン。彼女がゆらりと歩きつつ、ゆっくりと呼吸を整えたタイミングでその泉に到着した。木々に囲まれた泉だった。
かなり臭く、イオの好奇心をごっそり削ってくる。
その畔に注意書きの看板が立ててあるみたいだが、案の定イオには読めない。
彼は案内されるがまま、泉に近付いていった。
「ほら、そこに立ってみて」
「お、おう」
イオは恐る恐る泉へ近づく。
と言うか、夜の林は想像以上に人間の恐怖を駆り立てる。まるで、葉の擦れ合う音が愚者を笑い者にしているようだ。
そんな時。
「うわっ! 光った!」
その泉が輝きだしたのは突然だった。
光は眩しすぎる訳ではないが、決して弱々しい訳でもない。そこから不気味な生命力を感じた。
「なるほど、ね」
その光を確認してシロンはそう溢した。何かを諦めたような声色だ。
咄嗟に、イオがその真意を探ろうとするが、その前に何かに押された。泉の方へ押し出されたのだった。
「まあ、頑張ってね。良薬は口に苦しって言うでしょ?」
「は? 何言って……っ!? 押すなよ!」
シロンの方を振り返った瞬間、イオは足元の石に足を引っかけ、背中から泉にダイブする姿勢になった。
瞬時に、何かに掴まろうとして手を振るも、ただ空中を掻くだけになってしまった。
「ボクもなるべく頑張るよ」
「おい、助け――――」
シロンの顔がイオの瞳に映ったのを最後に、彼の意識は水底へ押し込められていった。