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A lot of stars  作者: 赤秋の寒天男
第二章 水面の虹
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5話 よく冷える夏

 カフェで軽食をとった後のこと。

 イオ、シロン、マイアの三人は宿屋までダラダラと歩いていた。


「この世界の食べ物はおいしいんだな」

「ん~? この世界、ってどういうこと~?」


 マイアはイオの発言にふと疑問を抱いた。

 もし彼がアクエリアスに初めて訪れたならこの国と表現すればいいものを、わざわざこの世界と言ったのだ。

 何か裏があると思われても無理はない。


「ああ……俺、実は最近この世界に来たんですよ。えっと、リブラ……であってる?」

「あってるよ」

「そう、そのリブラの召喚装置で急に連れてこられたんです。迷惑な話ですよ、ホントに」

「へぇ~……じゃあ、イオさんって別の世界の住人なの?」

「まあ、そうなりますね」


 マイアの目が、純朴な少女の瞳のようにキラキラと輝いた。もしや記者魂が疼くのだろうか。


「別の世界か~。着るものも食べるものも生活様式も違うんだよね~」

「そうっすね。あと魔法が使えません」

「え~信じられない!」


 それからはマイアの質問攻めに遭った。

 彼女は新聞記者ということもあってか、やはり好奇心が強い人間なのだろう。

 そんな会話を繰り返していると、辺りはすっかり暗くなり、いつの間にか宿屋の前に着いたのだった。


 そして、三人で宿屋の階段を上がっている時、シロンが隙を見て口を開いた。


「あの、マイアさん!」

「ん~?」

「確かこの近くに温泉がありましたよね? ボクもそこに行ってみたいなーって……」

「なに~? 付いてきて欲しいの~?」

「は、はい……一人だと夜は危ないかなって」

「も~照れちゃって~」

「俺も行ってみたいな。なあ、俺も混ぜてよ」

「イオさんは留守番しててね。はい、これが部屋の鍵だからね」

「…………」


 女性陣が改めて夜の街に繰り出し、結局イオは一人ぼっちになってしまった。

 渋々彼は自分のベッドに座り込んだ。


「ったく……俺の異世界生活は味気ねぇなぁ。もっとこう、チート能力とかで自由気ままなスローライフ的なものを想像してたんだが……」


 文句を垂れつつ、特にやることもないので部屋をグルっと見渡した。

 目に入るのは地味なものばかり。


「――――これじゃあ、ただのスローなライフじゃねぇか。召喚装置が修理される前に暇過ぎて死ぬわ」


 そんなことを呟いていると、イオはあるものを見つけた。マイアの鞄からチラッと覗いている新聞だ。大見出しの部分がちょうど見えていた。

 彼女の片付けの仕方が雑だったせいで、鞄は苦しそうに膨らみ切っていたのだった。

 イオはそんな鞄から新聞をギュッと抜き取り、その内容に目を通そうとしたのだった。


「文字は読めないけど図なら分かる……って、これ通り魔事件の記事か? 黒いシルエットが地図を転々としてる……」


 この世界の識字率はそこまで高くないようで、イオのような人間でも分かるように図が多用されていた。

 彼はそれを読み解いていったのだ。


 それで見てみると、水魔法使いによる殺人事件の概要が大きな地図と共に掲載されていた。

 事件が起きた現場に該当する場所にピンのイラストが付いており、それが幾つも連なって一本の線を描いていた。


「ふむふむ、一件目から順に……って、は!?」


 そして、イオは息を殺したまま驚いた。

 なぜならピンが徐々にアクエリアスの宿場町に近付いていることに気付いたからだ。

 これはイオたちの危機を示している。


「嘘だろ……? まさかマイアさんはそれを取材するためにここに来たってのか?」


 これでようやく合点がいった。

 新聞記者がわざわざアクエリアスに来るということは、それだけのネタが存在しているということだ。

 それでも変だ。事件が起きる可能性についての警告くらいはしてくれてもいいのに。


 ピンはある時期まで綺麗な直線を描いていた。犯人が真っ直ぐ突き進み、各々の土地で人を殺しているということだ。

 しかし、数日前を境にピンの描いた線が九十度近く曲がっていたのだ。

 目的地変更、線はこの街に向かって伸びていた。


「これ……大丈夫か? いや、大丈夫じゃないよな」


 その時、宿屋の階段を上ってくる音が廊下から聞こえてきた。

 誰かがこの部屋に近付いて来ているらしい。

 イオは恐ろしい記事を目にした後だったので、素早く身を縮めたのだった。


「や、やべぇ……っ! 誰か来てる!」


 手元の新聞を元の場所にそっくり戻して、部屋の角に背中を合わせた。

 そこが扉から見えない唯一無二の場所だった。


「……っ」


 呼吸を止めて、足音を聞くことに集中する。

 しかし、最悪なことに足音は二階の奥へ……つまり、この部屋の方向に突き進んできた。

 足音の主は別の部屋で前で止まる様子もなく、イオが息を潜める部屋まで来たのだった。


(マジかよ……っ!)


 背中を更に力強く壁にくっ付けて隠れた。

 それから足音はこの部屋の前で止まった。

 そして、その数秒後、ついに扉がゆっくりと開かれた。


(こっち来んなこっち来んな……)


 イオの願いも虚しく、何者かが部屋の中に無遠慮に侵入してきた。


(来たっ! やばいっ!)

「え? イオさん、そこで何やってるの……?」


 体を縮こまらせて恐怖するイオに、マイアが困惑した様子で声をかけたのだった。

 とんだ勘違いだ。恥ずかしい。


「ビックリしたぁ……」

「いや、私の方がビックリしたよ。忘れ物取りに来ただけだから」


 そう言って、マイアは鞄の中に手を突っ込み、件の忘れ物を引っ張り出した。

 そして、立ち尽くすイオに目もくれず、颯爽と部屋を後にしたのだった。


「鍵かけて寝とこ……心臓に悪いわ……」


 手でおでこの汗を拭い、扉と窓を施錠した。

 そして、大きくため息を吐いてベッドに特に戻ったのだった。


「ふう……ってか、季節感はどうなってるんだ。確か今は夏の始めだってシロンが言ってたよな? それにしては寒いぞ」


 夏に似合わぬ寒風を浴びたのだが、特に気に留めることもなくベッドに横たわったのだった。

 どうやら汗が風に当てられただけだと、彼は勘違いしたらしかった。

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