4話 他人・知り合い・友達
「イオ君は野菜好きだったよね。あげるよ」
「俺はあいにく野菜が嫌いなんだ……おいっ、いらねぇって」
「大丈夫大丈夫、気にしなくていいから。料金は経費で落とせるし、実質おごりだから」
「人の話聞けよ……っ!」
イオは静かに声を荒らげた。
と言うのも、今は一般人が集うカフェのような場所に来ているのだ。それもイオとシロンとマイアの三人で。
今は昼時をとっくに通り越しており、もう窓から夕日が差す頃合いだが店内にまだ人がたくさん残っている。だから、大声を出して場を乱す訳にはいかないのだ。
そして、シロンはイオが大声で断れないのを分かっているので、大嫌いな野菜を彼に押し付けようとしていた。
そのやり取りをマイアが保護者目線で温かく見守っていた。年相応の包容力を感じた。
「仲良しさんだね~、出会ってどれくらいなの?」
「昨日初めて会いました」
「そ、そうですよ。ボクたちそんなに相性抜群に見えますか?」
「そこまで言ってないよ……ただ、日の浅い関係には見えないな~って。いや~私はこう見えても敏腕記者でさ~、著名人の熱愛報道とか不倫騒動とかよく調べてるワケよ。
それでね、その人の視線や仕草を見るだけで、相手をどう思っているのか分かっちゃうんだな~これが」
「え、それじゃあイオ君がボクのことをどう思っているのか分かるんですか?」
「いや、わざわざ聞くなよ」
「そうだね。えーっと――――」
「いや、マイアさんも答えなくていいです」
イオは女二人に挟まれるように座っているのだが、さっきから左右に首を振るので忙しい。
お喋りの相手は大変だ。
「イオさんは~、シロンさんに特別な感情を抱いてる訳ではないね」
「えっ……イオ君、ボクのこと嫌いなの?」
「人を泉に突き落としといて、よくそんなことが言えるな。あと、あんまりはやとちりすんなよ。
俺はただ――――」
「そう、イオさんはシロンさんと関係が浅いから、まだまだ距離を決めかねてるって感じかな」
「そうです。代わりに説明してくれてありがとうございます。恥ずかしいのでもう止めてください」
シロンはホッと胸を撫で下ろした。
なぜなら彼女にとって、命の恩人に嫌われることが何よりも怖かったからだ。
シロンが管理局に就いたばかりの頃は、他の職員たちとまともな交遊関係を築けていなかったので、同年代のイオと一度は友達になれたことが何よりも嬉しかった。
だから、あの大切な一ヶ月が砂上の楼閣の如く、風に吹かれて飛びそうになっている現実には、彼女も思わず目を覆いたくなるのだ。
ちなみにシロンに友達ができなかった理由は、彼女にコミュニケーション能力が足りなかったのではなく、単に他の職員たちと年齢差があったからである。
確かに職員たちは優しく接してくれたようだが、一人の友人としてシロンの領域に踏み込もうとした者がいなかったことも事実。
「――――じゃあ、逆にシロンは俺のことをどう思ってるんだ?」
そうやって語り合っている時。
突如として、イオの何気ない発言が爆弾と化して、カフェの卓上に放り出されたのだった。
シロンの顔から血の気が引き、マイアの顔がいやらしく歪んだ。
ちなみにイオは真顔のままだった。
だって、その質問に他意はないのだから。シロンがやってきたことをやり返したまでだ。
「ねぇっ! 何でそんなこと聞くのぉっ!?」
「いいね~若いね~! 反応が新鮮だね~!」
シロンは顔を真っ赤にしてイオに詰め寄りつつ、空いた腕で必死にマイアの口を塞ごうとした。
しかし、マイアはニヤニヤした表情を隠さずに難なくシロンの腕を躱していく。
どうやら本心は既に読み取れているらしく、それをいつ言ってやろうかと機械を伺っているようだった。
そんな三人の言い合いが終わった頃。
夕闇は道端のライトに照らされ始め、カフェの客はほとんどいなくなっていたのだった。




