2話 その女、新聞記者につき
1000pv達成!
書き始めてから3ヶ月、休止期間を除けば2ヶ月ほどの道のりでした!
線路は続くよどこまでも、目指せ10000pv!
ウミウシ車の中でイオたちの会話は弾んでいた。
主な話題はこの世界についてだ。
「この世界では魔法が使えるんだろ? もしかして俺にもできるのかな?」
「君は……まあ、あんまり期待しない方がいいよ」
「え、才能がないって言いたいのか……?」
イオは思わず涙目になった。彼は派手な魔法を扱うつもりでいたのだが、どうやら夢を叶える以前の問題らしかった。
いくらシロンを問い詰めても、その表情はどうにも思わしくないまま。
こんな態度を取られたら、嫌でも自分の才能の天井が見えてしまうものだ。
そうして、落胆した心を携えつつ車に揺られていると、車窓から大きな青白いラインが見えた。
イオは少しだけテンションを取り戻した。
「結構デカい川が見えてるけど、これ辿ったらその……アクエリアスに着くんだっけ」
「そうだね。ボクは初訪問になるかな」
「おいおい、案内役なのに大丈夫か……?」
「だ、大丈夫だって! 宿屋の名前とそこまでの道順は教えてもらったし、経費も預かってるし!」
「本当か……?」
ようやく国らしき景色の一端が見えてきた。
所要時間は四時間程度か、案外退屈しないくらいの時間で目的地に着くことができたのだった。
川上に目を向けると、そこには――――
「おお~、すっげぇ……!」
「うわぁ……」
二人は揃って、その景色に感嘆した。
眼前に広がる青々とした湖は昼下がりの太陽の光を受けて煌めき、水色や白色で構成された多くの建造物の間を縫うように人だかりがあった。
事前の情報の通り、商人やら旅人が滞在する活気溢れる都市国家がそこにはあった。
「そういえば検問所とかないのか? ウミウシ車のまま入れるみたいだが」
「この国は全方向をリブラに囲まれてるから、ほとんどの通行人はリブラに入る時に検問を受けたんだよ。そして、ボクたちは検査が免除される」
「へえ~、リブラとアクエリアスの間は自由に行き来していいんだな。合併とかしないのか?」
「昔からの管轄とかが変わるのが面倒臭いらしいから、一応表向きは別々の国としてやってるの」
「はえ~」
物静かな国境を跨ぎつつ、彼らはアクエリアス水都国に入国したのだった。
周囲を見渡せば、国に入る人や出る人、迎える人や迎えられる人など様々な人間がいるようだった。
イオはかつてない興奮を胸に、そのまま国の中心へ向かうのだった。
◆◆◆
ウミウシ車はアクエリアスの中心都市にある車屋に停車させた。ウミウシはヒレ足をブルブルと伸ばし、そのまま納屋の隅にある水バケツに顔を突っ込んだ。
そして、座りっぱなしの姿勢からようやく解放されたイオとシロンは、順番に台車から降りて背筋を伸ばした。
「久しぶりだなぁ~、こんな長旅」
「俺もだ……最後に旅行に行ったのいつだっけな」
体を慣らした二人は、すぐさま宿屋を目指した。
と言うか、シロンが早く休みたがっていた。
どことなく急いでいる彼女に引っ張られるように、イオは斜陽に照らされる街に繰り出した。
「俺、そう言えば全然疲れてねぇや。でもまあ、先に宿屋に行っとくのも一つの手だよな。荷物を置いときたいし」
「そうだね……その後にご飯食べに行こっか」
どうやら、無意識の内に彼の魔法特性『不死』が発動してしまっているらしい。
彼自身は気付いていないようではあるが。
「やっぱり人が多いな。シロン、迷子になるなよ」
「なんでボクが迷子になると思ってるの……」
この旅の案内役はシロンが勤めている。
どちらかと言うと、心配されるべきはイオの方だ。
だから、彼は大人しく金髪美少女の小さな背中を追うことにしたのだった。
そして、しばらく歩いた先に旅館が見えた。
「お、ここか。異世界語は読めないから、看板に何て書いてあるのかも分かんないけど」
「『宿屋・極楽』だね」
どこか風情を感じる宿屋だった。
柱には黄土色の木が使われているようで、屋根には石の瓦が乗せられていた。
あまり高級さは感じられないが、庶民的な優しい雰囲気が良い味を醸し出していた。
「こんちはー」
「こんにちは」
二人は戸を開けて中に入った。
向かって正面に受付があって、そこには気の良さそうな中年の男性が立っていた。生え残っている白髪をキッチリ切り揃えて整髪料で纏めているイケてるおじさんだった。
そして、その脇には机と椅子が六組分置いてあって、ボサボサ赤髪の若い女性、帽子を顔に被せて寝ている年齢不詳の男、遅めの昼食を食べている力が強そうな青髪の若い男性、手帳を眺めている白髪に極彩色のメッシュを入れている不思議なヘアスタイルの若い女性がいた。
まず二人は受付に向かった。
「おお! いらっしゃい!」
「こんにちは。あ、イオ君はあっちで待ってて……えっと、リブラから来たシロンとイオですけど――――」
「んん……? お嬢ちゃん、それは予約の話かい?」
「はい、そのはずですけど……」
そこら辺の椅子に座り込んだイオは、会話の後に続く言葉を何となく予測できてしまった。
そして、それはシロンも同じだった。
二人がそれぞれ別の場所から受付のおじさんの顔を見上げてみると、彼は申し訳なさそうな表情で顎を撫でているのが分かった。
(もしかして……)
(宿屋を間違えたとか……?)
「あ~……お嬢ちゃん、そんな名前は予約にないみたいだ……すまない! 他をあたってくれ!」
「そ、そんなぁ!」
シロンは暗い表情を浮かべて、イオが座っている椅子に向かった。
そして、先程のやり取りの結果を話そうとしたのだが、イオは彼女を気遣って先に口を開いた。
「まあ、他の宿屋に行ってみようぜ。ってか、足とか疲れてないか?」
「大丈夫……と言うか変だよ……」
「足が?」
「違う。予約のことだよ」
シロンが宿屋を間違えた訳ではないし、アークトゥルスが予約を入れ忘れたとも考えにくい。
今の状況を説明できる理由が、二人はさっぱり思い浮かばなかった。
しかし、どうにもならないので途方に暮れた。
「金は持ってるよな? それでとりあえず違う場所に泊まれば良いさ」
「うん、でも一週間分のお金はない……わざわざリブラに帰らないといけなくなるよ……」
シロンは申し訳なさそうに答えた。
別に彼女のせいで問題が起きた訳ではないのに、思ったより気を落としているので、イオは扱いに困った。
陽気な雰囲気から一転して、重苦しい雰囲気を纏う二人であった。
◆◆◆
そんなこんなで、イオたちはトボトボと宿屋を背にして外へ向かったのだが……
その時、後方から二人を引き止める声がした。
「待って待って! ねえ、ここに泊まりたいの?」
「あ、俺たちのことですか? 確かに泊まりたいっちゃ泊まりたいですけど――――」
振り向いてみると、宿屋のロビーで手帳を眺めていたあの若い女性が立っていた。
顔はとても整っていて、雑誌で特集を組まれていても違和感がないような美しい目鼻立ちをしていた。
それから、目尻が釣り上がっていて笑顔が綺麗なので、一目見た時に明るい人柄の印象を受けた。
しかし、それよりも目を引くのが、その珍しいメッシュカラーだ。いや、地毛かも分からないが。
白い下地に色とりどりの鮮やかなメッシュが入っていて、そのせいでイオは彼女のことがモデルというよりも芸術家に見えてしまったのだった。
何だか表情が明るすぎて、逆に怖くなってきた。
まあ、隣にいるシロンが「代わりに答えてよ!」みたいな視線を送ってきたので、適当に流す訳にもいかなかったのだが。
「――――それが何か?」
「もし良かったら私の大部屋に泊まらない? 実は同僚が病気でアクエリアスに来られなくってさ、今は二人部屋を一人で独占して使ってるんだ」
「あ、ありがたいんですけど……その前にアンタは一体誰なんですか?」
「ああ、私? ひとまず自己紹介から――――」
虹メッシュの女性は、その豊満な胸を服が伸びるほどパンパンに張って見せてから言い放った。
「私の名前はマイア! リブラを拠点にして世界各地を飛び回ってる敏腕新聞記者だよ!」
その女性――――マイアは、右の拳を胸に当てて元気良く自己紹介をしたのだった。




