1.5話 悪寒
割り込み失敗!
謎の真っ白な空間にて。
とても寒い、イオはそう感じた。
「――――」
彼はこの感覚に覚えがある。
寒さに覚えがあるのではなく、この夢心地を感じさせる空間に覚えがあるのだ。
イオは周囲を観察した。
「――――?」
ここは泉より広い、恐らくは湖だろうか。
その湖の水面がピッチリと凍り付いていた。
そして、イオはその上にいた。
吐く息は白くない。と言うか、いくら息を吐いても何も出てこなかった。
そんな時――――
「――――っ!?」
――――ガリィン!
氷が割れた音がした。この音量じゃ、音源はかなり近いとすぐに分かった。
だから、イオは後ろを振り返った。
すると、音の主が見えた。それが後ろにいた
デカい翼が生えていて、顔は見えない。
イオは咄嗟に逃げ出した。
「――――っ!」
しかし、いくら逃げても追ってくる。
翼を持ったUMAがドシドシと足音を鳴らして追ってくる。
ヤバイ、ダメだ、追い付かれる。
そんな危険な状況で、運が悪いことに、イオの足元の氷が割れてしまった。
「――――っ!?」
――――ドボン!
イオは冷水の中に落下した。
急激に肺と脳が冷たくなっていった。
夢の中なのに、まるで溺れているような感覚になった。
そして――――
◆◆◆
「――――っ、はぁ! はぁ……あぁ、ふぅ……」
「良かった、起きたね」
「ちょっ、事情を……一体何が……」
「服は乾かしてあるよ。早く着てね」
「気が利くんだな、ゴホッ! ゴホッ!」
イオは、グワングワンと朦朧する意識を掴み上げ、脳を覚醒させた。
膝枕をしてくれているシロンを眩む目で捉え、冷え込んだ体をブルブルと震わせた。
「――――で、何やってくれてんだよ……俺を突き落としたのか……?」
濡れていたはずの既に乾いている服を着て、彼が身なりを整えたところで話し合いが始まった。
「泉の中で何を見たの?」
「ああ、めっちゃさごぉっほぉおぇっ!」
「そう……」
「何なんだよ! 滅茶苦茶喉がむせるんだが!」
イオは先程の行為の真意を尋ねたかった。
見知らぬ世界で、泉に突き飛ばされて、意識を失い溺死させられかけたのだから。
しかし、シロンはそんなことを気にも留めない様子で淡々と話を進めたのだった。
記憶喪失のイオは、一人置いてかれた。
「えっとね、『泉』で見た景色は他人に伝えられない呪いがあるの。話そうとしたらむせるんだ」
「なんだよそれ……」
「それでね、その中で見た景色って……その人に起こりうる……なんと言うか、悲惨な未来を映し出してるの」
「ええ……意味不明なんだが。つまりなんだ、俺が危ない目に遭うから、それを事前に知らせてくれたってことか?」
「うん、信じて」
「信じられるか!」
イオはどうにも納得がいかない。危険を知らせるのに、危険な状況に陥れてどうするのか。
泉に突き落とすわ、その内容を他人に伝えられないわ、あまりにも不便じゃないか。
彼は異世界の洗礼に混乱しっぱなしだ。
こんな調子の生活が続くのか、とイオは心の中でげんなりと嘆いた。
「じゃあ行こっか、アクエリアスへ」
「じゃあ、ってなんだよ。しれっと流すなよ。許した訳じゃないからな」
「はいはい」
こんな一悶着があったが、とりあえずイオの第二の異世界生活が始まることになった。
二人はウミウシ車に乗り直したのだった。




