IF-1 新田五百のとりこぼし
今、この瞬間――――
「ダメ! 行かないで!」
「……い、行かなきゃダメなんだよ!」
人生で最も難しい選択を迫られている、人生の岐路に立たされている、そんな気がした。
まだ二十年も生きていない彼だが、それでもこの選択は、これから出会うであろうどの選択よりも難しく思えたのだった。
「ダメだって! もし中に入ったら、ブラキウムさんに殺されちゃう! ターゲットは君なんだよ!?」
「……そんなこと、ない!」
イオは、自分の意見を信じて、シロンの意見を聞かずに、一心不乱に闇の中に飛び込もうとした。
それが最善の選択だと思った。
しかし、その時――――
「お待ちなさいなァ。あとは僕たちに任せて、君は大人しく待っててね」
「カナンさんっ!? なんでここに!?」
なんと邪魔が入った。
正面玄関前にいたはずのカナンが、裏口まで移動してきたようで、ブラキウムの所に行こうとしたところを捕まえられてしまった。
まだまだ小さい彼にとって、カナンはとてつもなく分厚く高い障壁だった。
腕を振り払おうとしても、それができなかった。
「シロンちゃん、イオ君をアークトゥルス先生の所に連れてってあげて」
「シロン、言うことを聞くな! 俺は行かなきゃ!」
「……ごめんね、カナンさんの方が正しいよ。ほら、ボクと戻ろう。ここから先は危険だよ」
「うぅっ! クソっ、離せぇ!」
イオの補導役がシロンに変更された。
彼は逃げるチャンスだと思い、腕を思い切り振ったが、残念ながら彼女もカナンと同じくらい力が強かった。
人間なのかどうか疑うほどの握力で、物凄いパワーでイオを引き止めたのだった。
これはマズイ。このままではマズイ。
「じゃァ、行ってくるよ。二人とも気を付けてね」
「はい」
「俺も行きます! 待ってください!」
(……何が、君を駆り立てているのかなァ?)
カナンは無言でイオを見て、それから管理局の中に向かった。何とも意味深な眼差しだった。
彼が闇に吸い込まれたのを見届けた時、イオは大きな喪失感を味わった。
それから数分後。
彼は闇の中から帰還した、深刻な表情を浮かべて。
一直線に正面玄関前に戻り、局長に中でのことを報告したのだった。
「先生ッ! いらっしゃいますか!?」
「どうした? 何があったのかね?」
「は、犯人だと思われていたブラキウムの件なんですが――」
必死の形相で駆け寄ってきた。
近くにいたイオとシロンも、それからアークトゥルスも彼の話に耳を傾けた。
荒々しく上下する肩を、ゆっくり落ち着かせた後に、彼は慎重に口を開いた。
「――彼女は脳を抉られて、既に死んでいました」
「何じゃと!?」
それから数秒後、管理局を覆っていた闇は、不気味なくらいに素早く晴れたのだった。
まるで魔物が尻尾を巻いて巣に帰ったようだった。




