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A lot of stars  作者: 赤秋の寒天男
第一章 夕闇の先
38/465

38話 最後の最後で

あと数話です

 イオたちが局長室に匿われた日から、ブラキウムは目立つ行動を露骨に避けるようになった。

 厳戒態勢を採り続けた甲斐があったものだ。


 特に問題が起こることもなく、イオの異世界生活の日々は過ぎ去って行った。

 召喚されてから、実に三週間と数日が経過した。


「召還装置の具合はどうだ?」


 その日の仕事が終わって、いつものように局長室に戻って来たのは、焦げ茶色の髪に翡翠色の瞳を持つ地球人の少年・イオだ。


「良い感じだって、メルガさんが言ってたよ」


 彼の問いに答えたのは、金色の髪に紅色の瞳を持つ太陽のような美少女・シロンだ。

 今日も変わらず美しい。


 ちなみにメルガというのは、召喚装置の管理を担当する『金星』の名を冠する女性のことだ。

 ドロフと同じくらいの変わり者だが、世間への露出が極端に少ないので、その生態はあまり知られていない。

 局員であっても、彼女と会話をしたことがあるのはたったの数名のみ。


「イオ君も、いつかは元の世界に帰るんだよねェ……とても寂しいし悲しいよ。でも、喜ばしいことでもあるね」


 袖口から包帯をヒラヒラと揺らして見せながら、カナンは一足早い餞別の言葉を述べた。

 広くも狭くもない局長室に、大人二人と子供二人が詰めていた。

 その四人で楽しく談笑をしていた。


「あと少しでボクたちは離れ離れになるんだよね……泣いちゃいそう……」

「ちょっ、急に暗い雰囲気持ってくるなよ。それに、俺がいなくなってたとしても、管理局は俺が来る前に戻るだけだろ? 何も変わんないって」

「その通りじゃ。君がいなくとも管理局は問題なく動き続けるぞ」

「じ、自分で言っといて何なんですけど、そこまで言わなくても……」


 辛辣な文句を冗談混じりに放ったのは、リブラ魔法管理局の最高責任者であるアークトゥルスだ。

 彼の言葉は心に突き刺さるが見事に的を射ている。

 なにせイオは、この一ヶ月間で雑用しかやらなかった上に、限られた人間としか交流を持たなかった。

 端的に言えば、影が薄かった。


 イオは例の事件の原因であるが、被害は今のところ出ていないし、この調子だと職員たちにはすぐに忘れ去られることになるだろう。


「――――でも、やっと帰れるのかぁ……」

「ははは……そんなにこの世界が嫌だったかね?」

「あ、いえいえ、結構楽しかったですよ。でもやっぱり、自分が慣れ親しんだ世界の方が居心地がいいなーって。きっと何年か住んでみたら、この世界も気に入ると思いますよ」


 この世界の食事はおいしかった。

 空気も綺麗で澄み渡っていた。

 ベッドは……イオは不眠体質になってから一睡もできなかったので、その良し悪しは分からなかった。

 まあ、総合的に判断すれば楽しい生活だった。

 この世界を気に入りかけた、と言うのはイオの正直な感想だった。

 それに――――


「……ん? 何でこっち見てるの? 変なの」


 目の前に佇むシロンに視線を落とす。

 コイツと会話していると不思議と楽しくなったな、などとイオは懐かしむように感慨に浸った。

 実際は、そこまで昔を懐かしむほどの長い付き合いでもなかったが。

 何はともあれ、これで平和に幕を下ろせそうだ、とイオは心の中で呟いた。


 あと、実はアークトゥルスと約束をしたのだ。

 俺が元の世界に帰ったら代わりにシロンを守ってください、と。

 それから、偶然にもブラキウムの管理局本部への異動が決定したのだ。

 彼女は配属された日から勤勉に働き続けていたので、その勤続期間も加味した結果、本部への栄転が報酬として支払われた。

 諜報員がリブラの深層へ食い込むのは良くないのだが、ブラキウムをシロンから遠ざけられるということで、イオはこれを嬉しい誤算としておいた。

 アークトゥルスには心の中で謝っておいた。


「そうだ、スピカさんにお礼を言わないと……」


 イオは独り言のようにそう言った。


 そんな、ある日の夕方。

 異変が起きた。

 全てうまくいくと思い、油断していた頃だった。

 アークトゥルスが最初に異変に気付いた。


「む……?」


 突如として、管理局全体が地震に見舞われたかのように、大きくグラグラと揺れ始めたのだ。

 誰でも分かるほどの異常な揺れだった。

 そして――――


「いかんっ! 外へ避難するんじゃ!」


 真っ黒な濃い靄が、轟音と共に管理局を包み込んだのだった。

 ドス黒い魔法の束が、扉から窓からあちらこちらから一斉に侵入してきた。

 全員が視界を奪われた。


「カナン君っ! 光魔法使いを先頭にして、局員全員を素早く外へ逃がし、正面玄関前に集合させるんじゃ!」

「は、はいッ!」

「――――大丈夫ですか、先生!」

「スピカ君か、来るのが早かったな……君は他の職員を導いてやりなさい! イオ君とシロン君は儂が連れて行く!」

「分かりました!」

「あ、アークトゥルスさん……俺はどう――――」

「案ずるな。冷静に対処すれば大丈夫じゃ」


 多くの魔法使いがひしめくリブラ魔法管理局。

 それは、一瞬にして、とある女によって陥落した。

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