35話 作戦会議
「絶対に誰にもバレるな」
シロンの耳に入ってきたのは、あまりに意外な言葉だった。
イオを狙ってる犯人の存在を、イオ自身が口止めしたのだった。
「な、何でバレちゃいけないの? もしかしてグルなの?」
「そんな訳あるか……俺にも考えがあってのことだ」
「……どういうこと?」
イオは事の顛末を包み隠さずに話した。
こうなったら仕方がない。もうシロンに頼ろう。
そう考えた彼は、残された時間を有効に活用できるように作戦の共有を行った。
「――――なるほど。つまり、イオ君はブラキウムさんを助けたいと?」
「まあ、そうなる」
「……変なの」
「変ってなんだよ、変って。普通だろ?」
「いや、結構おかしいよ」
シロンの言い分はわからんでもない。
確かに、加害者を救おうとする被害者がいるというのは奇妙で気味が悪い。一般人の視点からしたら、かなり狂った思考に思えるだろう。
しかし、これでもイオは本気の本気だ。
ブラキウムを救おうと真面目に考えている。
そこをシロンに理解してもらいたかった。
「聞いた話によると、ブラキウムさんはイオ君を誘拐するか管理局に逮捕されるかを望んでるんでしょ? もし助けるとしたら、どんな風に声をかけるの?」
「そりゃあ……確かに、何て言えば良いんだ……」
「一度は説得しようとしたんでしょ? 反応はどうだったの? それ次第では――――」
「何も言わずにどっか行ったぞ」
「そ、そう……」
ブラキウムは焦っているだろう。なぜならイオに正体がバレてしまったから。
恐らくは、死ぬ覚悟を決めているはずだ。
だって、それもそのはずで、このまま諜報員としての任務を全うすれば管理局に捕らえられ、ここから逃げ出せば生きる術を失うのだから。
言うなれば、前門の虎に後門の狼か。
とにかく、彼女に残された時間は多くない。
イオと同じで、時間に追い立てられる身である。
「いっそのこと、正直に告発するか……? 事情を話せば保護もあり得るかも」
「いや、間違いなく捕まえられるね。しかも、スパイ活動はリブラでは重罪なんだよ。かなり重い刑罰が待ってるはず。まあ、結局は法長の裁量次第なんだけどね」
「そっかぁ……」
「やっぱり、ボクたちには――――」
「あ、ここにいた! おーい!」
突如として、二人だけの空間に快活な呼び声が乱入してきた。スコルピイの声だとすぐに分かった。
イオたちは声を潜めてから、慌てて振り返った。
「ど、どうしました?」
「いやー、本部から追加の物資が届いたんだよ! 二人で運んどいてくれないかなって! すぐ見つかって良かったー!」
「ああ、分かりました……って、シロンは大丈夫か? 疲れてない?」
「ボクは大丈夫だよ……また夕方に話し合おっか」
最後の一言だけは、シロンがイオの耳元で囁いた。
不意に吹き掛けられた生暖かい息が、油断していたイオの体を震わせた。
しかし、そんな快感もすぐに冷め切り、早々に現実に引き戻されたのだった。
やはり脳裏に浮かぶのは、闇に消えたブラキウムの悲しげな横顔。
あれを思うと気持ちを沈めずにはいられなかった。
イオがブラキウムを救うか、ブラキウムがイオを喰らうか。
この異世界生活がどうか良い方向へ転がりますように、とイオは切に願っていた。




