28話 決意、新たに
ある日の昼下がり、食堂から出てくる男女の姿があった。
男は窓の外をボーッと眺めながら物思いに耽っていて、女はそんな男に構い続けていた。
「これから仕事に戻るけど、体は大丈夫?」
「全然大丈夫だぜ……あ、仕事中はなるべく気を抜かずに、俺から離れないでくれ」
「あ、あっ……う、うん」
何か思い悩んでいる風の男――イオの気が休まることはない。
自分自身に、いつどこから災難が降りかかってくるのか、それが全く分からないのだから。
ひたすら心配そうに見つめる女――シロンもそれは承知していた。
「犯人、誰なのかな……」
「なあ、シロン、管理局に前科持ってる奴とかいんのか?」
「いないはずだよ。職員に犯罪歴がないかどうかは、管理局本部の『目』が厳正に目を通すからね」
「え、怖くね……?」
「そのおかげでこの国の平和は守られてるし、履歴書を舐め回されるのはしょうがないよ」
(俺は履歴書なんて提出してないけどな)
互いに情報交換を済ませつつ、仕事場である広間に戻った。
今日の仕事は物資の運搬と整理。
まだ入所したばかりのイオと、彼に付いているシロンには基本的に雑用しか回って来ないようになっている。
彼らの目前に、山のように木箱が積み重ねられていた。
「じゃあ、一つ一つ丁寧によろしくね」
「おう」
こんな気が遠くなるような雑用も、イオにとっては苦ではなかった。
だって、今は強力な力が眠っているのだから。
「どう? まだ『不死』の効果は続いてる?」
「ん~万全だな。全然疲れない」
イオにとって唯一の命綱である『不死』の効果、体を永続的に治癒し続ける能力は健在だった。
しかし、これは別の事実を照らし出している。
それは――――
(やっぱり俺の魔法特性は発動状態を切り替えられない……つまり、魔力はずっと治癒に充てられるってことだ。まあ、魔法で十分な力を発揮できないより、不意打ちで殺されないだけマシか)
イオは土魔法と木魔法を使えるらしいが、木魔法の方は魔力を『不死』の維持に吐き続けているので、本来の力を発揮できない模様。
折角生成した魔力も、湯水の如く消費されていく。
古文書によると、本来なら植物を操って戦うことができるらしい。
しかし、イオにはそれができない。
「どうやって土だけで身を守れってんだ……せめて別の術も欲しかったな……」
「……残念だったね」
こうやって心配してくれているが、シロンこそ二つの属性を操る真の魔法使いだ。
火と光、分かりやすく強い属性を使える。
かなり羨ましい。
「いいなぁ~マジで。俺も光線とか撃ってみたかったなぁ~」
「持って産まれたものだからしょうがないよ。ボクからしたら、イオ君の土魔法が羨ましいよ」
「嘘つけ。こんな地味臭い――――」
そんなこんな言い合う内に、夕方頃には仕事が滞りなく終了した。
既に日は落ちて、辺りは暗くなっている。
しかし、夕御飯にはまだ早い時間帯。
イオたちは管理局廊下をぶらついていた。
「ねえ、これからどうする?」
「どうするって……あ、まだ知らない場所がいっぱいあるからさ、案内の続きとかしてくれないか?」
「いいよ! じゃあ、着替えてからまた広間に集合だね!」
「あぁ」
イオは単独行動に移行した。
これは非常に危険な行為だが、短時間で済むので大丈夫だろうと彼は考えていた。
この浅はかな考えが、彼自身に厄災を呼び寄せることになるとも知らずに。




