27話 温かいスープ
イオには一つだけ考えがあった、犯人を特定するための考えが。
それを実現させるためには、魔法の習得が必要不可欠だった。
「ねえ、イオ君さ、ボクが犯人だと思わないの?」
イオはシロンと一緒に食堂に来ていた。
今は一緒にスープを啜っている。シロンが好きそうな鶏肉入りスープだ。
そもそも、なぜシロンと一緒に行動しているのかというと、この管理局の中にイオを襲った犯人が潜んでいるかもしれないからだ。
そこで、犯人が捕まるまでの護衛としてシロンを選んだのだ。
彼女はその点を疑問に思ったのか、唐突に質問をしてきた。
「一緒にいた時間が長かったし、別に疑わねぇかな。それにさ、お前は闇魔法を使えないだろ?」
「確かにそうだけど……ほら、嘘をついてる可能性とかあるかも……」
「お前そんなに犯人にされたいのか?」
イオはいまいちピンときていない様子。未だにシロンの真意を掴めていなかった。
とんだ鈍感野郎だ。
「いや、そうだけど……な、何でそんなにボクを信じたねくれるの?」
「だから何となくだって。黙って飯食えよ」
「ねえもう、その何となくって一体何なのさぁ~」
シロンはスプーンを皿に置いて、イオの体を揺すり始めた。
それに対して、イオは怒るかと思いきや、反応は意外に大人しいものだった。
粛々とスープを口に運んでいた。
「そう言えば……ドロフさんの捜査はどうなってんだろうな。あの、俺が襲われた場所のヤツ」
「確かにボクも気になる。噂によれば、寮の裏には闇魔法の匂いが残ってはいたらしいけど、その他の手がかりはないって言ってた……今更だけど、イオ君は何で寮の裏にいたの?」
「特に理由はないぞ。夜風に当たりたかっただけ」
実は、イオは『不死』の追加効果的な修復作用により、今は不眠体質になっている。
だから、夜の暇な時間に密かに考えたのだ、犯人を炙りだす方法を。
事件当時にイオがいた場所を利用して犯人を特定する。靄に襲われたのは屋上だったが、イオはその際、それから逃げるために地面に飛び降りた。
アークトゥルスやシロンを含む全員に、この一連の動きはまだ話していない。
つまり、これからイオと会話をする中で、彼が屋上で襲われたことを知っている素振りを見せた者が犯人だと分かる。
この論理に従えば、自然とシロンは犯人候補から外される……と思いたい。
犯人が巧みに嘘をつく可能性だってある。
そこだけは慎重にならなければ。
「あのさ――――」
シロンが再び話し掛けてきたのは、イオがボーッと昼食を食べている時だった。
可愛らしい顔をこちらに覗かせていた。
「不安なことがあったら相談してね。ボクなら聞いてあげられるから」
「いきなりどうした」
「いや、結構真面目な話。スプーンを置いて、こっち見て、ねえ」
「うごぉっ!?」
シロンがイオの手からスプーンを取り上げて、彼の顔を力ずくで横にカクッと曲げた。
首を思い切り捻られた苦痛にイオは悶えたが、彼女がまだ顔を両手で挟んでいたため、動き回ることもできなかった。
痛みを腹の底に鎮めつつ、彼女の紅の瞳に視線を合わせた。
「もし本当に大変なことが起きて、後戻りできないくらいの事件に巻き込まれたら……ボクに頼ってよ、いい?」
「分かったから……はなっ、離して……痛い痛い痛い」
「本当に分かってる?」
「本当です本当。マジだから」
問答の後、やっと解放してくれた。
いきなり塩らしくなって、シロンはどうしてしまったのだろうか。
イオはそんなことを思いながら、首をゴキッと鳴らして、机に向かい直したのだった。
「あーやっと飯食えるわー。どんな話題でも破壊できる生返事最強ー」
「ボクの話聞いてたぁっ!?」
イオは机に突っ伏すようにして昼食を摂取し、シロンが彼を机から引き剥がそうと体を揺すった。
彼は顔を下に向けるので精一杯だった。
と言うか、顔を見られたくなかった。
優しすぎるシロンの気遣いにちょっと安心してしまって、思わず泣きかけたことは死んでもバレたくなかった。
「約束してよぉ~!」
「はいはい、分かった分かった」
「絶対分かってないヤツじゃん!」




