26話 身を守る術
「うぉぉぉぉっ! すっげぇぇぇぇ!」
イオは、周囲の地面を操りながら叫んだ。
と言うのも、つい先程魔法を初めて自発的に使うことに成功したのだ。それを心の底から歓喜していたのだ。
そして、そこからの上達は早かった。ようやくイオの体に魔法が馴染んできたところだった。
「まさか本当に魔法が使える日が来るなんてなぁ……っ!」
小さい頃からの夢が叶って、イオは感極まり涙した。
自身が立つ大地の一部を意のままに操り、その全能感に酔いしれていた。
「よし、もう一回いくよ。ボクの本気に耐えられるかな?」
嬉しそうに回るイオの横で、少女がニヤリと笑った。彼の成長が余程嬉しかったらしく、その力をもっと高めようと画策していた。
指導役を務める魔法使いのシロンが、青空の下に赤黒い火球を生成した。
「っ、しゃあっ! かかって来いっ!」
「ふふん、受けられるかな? うりゃあ!」
彼女は両手を振り下ろして火球を放り出した。
もちろんそれはイオに突進し――――
「っ……はぁぁぁぁっ!」
炎が彼を焼こうとしたところで、また完璧に魔法を展開して見せた。しかも先程より精度が高まっているように感じた。
イオは瞬時に土壁を作り、燃え盛る火球を防いだ。
これでもう魔法について心配は要らないだろう。
もし誰かに襲われたとしても、とりあえず最低限の抵抗はできるようになった。
どこからか魔法が飛んできたら、土を操って反撃してやる。イオはそう決心したのだった。
「よし……なあ、シロン、仕事に戻ろうぜ! まだ昼だろ? 皆を少しくらい手伝えるんじゃないか?」
「そうだね……ご飯を食べたら戻ろっか」
二人はボコボコに荒れた庭を離れ、また管理局本館に舞い戻った。
◆◆◆
その数分後、管理局内の廊下。
綺麗な絵画が一定の間隔を置いて飾られている長い廊下を二人で歩いていた。
向かうは食堂。訓練のせいで腹が減って仕方ない。
「そう言えば、木魔法で攻撃はできるのか?」
「結論を言うと、それ無理なはずだよ。とある古文書には木属性の魔法使いは回復しかできなかったと書かれてたみたいだし」
「そっかぁ……」
「と言うか、そもそも土魔法も攻撃じゃなくて防御に優れた属性なんだから、敵を倒すことに関しては期待しない方が良いかもね」
「そう、だよな。とりあえずは、敵に出会ったら土魔法で防御して逃げる感じになるのか」
「残念だね……他の属性なら話は180度変わるんだけど」
「まあいいさ、俺はそもそも人を傷付けるつもりなんて更々ないからな」
「え、何で? ボクならすぐに火魔法を撃つけど」
シロンが不思議そうにイオの顔を見た。
ふと横顔を見てみると、彼は神妙な面持ちで目の前を見据えていた。その時だけは、若者らしからぬ悟った目をしていた。
「いや、何か怖くね? 自分の手で誰かを怪我させるのって、すげぇ罪悪感に苛まれるって言うか……」
「つまりヘタレってこと? イオ君さあ、男でしょ? もっと堂々とやっちゃいなよ~」
「俺はヘタレじゃないぞ。ただの心優しい少年だ……おい、なんだその視線は!? 間違ったことは言ってないだろ!?」
シロンはイオの目をジーッと見た後、窓の外に視線を移して疑いを誤魔化した。それでも、彼はしつこく問い詰めたが。
彼女は笑ってそれを流した。
「イオは確かに優しい……いや、優しすぎるかもね」
「今何て言った!? 悪口か!? ボソッと聞こえたぞ!」
「ボクは何も言ってませーん」
「おい、逃げんな!」
追及の声から逃げるように、シロンはダッシュで食堂へ向かった。イオは咄嗟に追いかけたが、彼女の足が意外と速かったため、付けられた差を縮められなかった。情けないことに逃げ切られたのだった。
今のシロンは、森の中でウミウシに追いかけられた時の彼女よりも速いかもしれない。
イオは息を切らしつつ食堂前までたどり着いた。
シロンは笑顔で待ってくれていた。
彼女に手加減される形で、ようやく追い付いたのだった。




