25話 壁
シロンの作り出した火球はとても強大で、イオの皮膚はジリジリと焼けるような熱さを感じ取った。
今すぐにでも逃げ出したい気分だ。
「おま……っ、マジでやりやがったなぁっ!?」
しかも大きいだけでなく、ある程度の速さもあるのが厄介。逃げようとしても呑み込まれるのは必然と言える。
だから、イオは火球に呑まれる寸前にそれを横転で回避した。身のこなしは華麗ではなかったが、避けられただけ十分だろう。
「逃げてばかりじゃダメだよ! ほらもう一回!」
「マジで死ぬって! マジで死ぬぅ!」
汗を垂らしながら必死に避け続けるイオを見ても、シロンは攻撃の手を緩めなかった。
どうやら本気で彼を追い詰めるつもりのようだ。
真摯に訓練に向き合ってくれるのは嬉しいが、正直ありがた迷惑な気もする。
まあ、訓練の依頼者の分際でそんなことは言えないが。
「イオ君! 怖いことから目を背けるのは楽だけど、一回でも向き合ってみて! 意外と勝てる相手かもしれないよ!」
「勝てる訳ねぇし! ってか死にたくねぇ! 早く止めてくれえっ!」
「ほら! 体の内側に意識を集中させてみて! そして意識を土に移す! はい!」
シロンが焦らすようにして言った。
しかし、イオはもう焦りで頭がパニック状態になっている。
だから、判断能力が少しだけ鈍った。
(こうなったらヤケクソだ……っ!)
気でも狂ったか、そこでイオは覚悟を決めた。どうせ死んでも生き返るから、と諦めに近い覚悟をその身に宿したのだった。
心の中の恐怖を押し殺して、シロンの火球に真っ正面から立ち向かった。
「これで死んだら……絶対に許さねぇからなぁぁぁぁっ!!!!」
熱いエネルギーの塊にぶつかる直前、イオは目を閉じて絶叫した。
そして腕を振り上げて、意識を集中させるイメージを浮かべ、それをそのまま地面に叩き落とした。
体の中に眠るパワーを、土魔法として顕現させようとしたのだった。
「どうにかなれぇぇぇぇっ!!!!」
耳元で火がバチバチと滾る音が聞こえた。
イオはそこで自身の三度目の死を予感した。
しかし、いくら待っても自分が燃やし尽くされるはなかった。なぜか死ななかった。
(あれ……?)
もしかして、いつの間にか死んだのか。
そう思い、恐る恐る目を開くと、目前に大きな土壁がそびえ立っているのに気付いた。
四、五メートルはあるだろうか、そんな見上げるほどの大きな壁が、火球の威力を押し止めることに成功していたのだ。
もしかしてこれがイオの初めての――――
「…………」
「やったねイオ君! おめでとう! ボク嬉しいよ!」
「えっ、これ俺の魔法?」
「そうだよ! 立派な土の魔法! これ君がやったんだよ!」
それから数秒間、イオは瞬きを繰り返し、ようやく状況を理解した。
そして、彼はため息を吐いてその場に倒れるように座り込んだ後、シロンに向けて言った。
「お前マジでさぁ……っ、死ぬかと思ったわ!」
「えへへ、ごめーんね」
「えへへ、じゃねぇよ。マジで許さねぇからなぁ!?」
「ごめんなさいごめんなさいっ!」
イオの怒号とシロンの叫び声、二人の声が空っぽの中庭に響き渡った。
どうやら初めての魔法訓練は成功に終わったようだった。




