表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A lot of stars  作者: 赤秋の寒天男
第一章 夕闇の先
23/465

23話 黒い潔白

 管理局の中央に位置する大広間に、ほとんど全ての職員が集められたのだった。

 目的はもちろん犯人探ししかあり得ない。


「こ、こんなに匂い嗅ぐのは久しぶりだなぁ~。さあさあ、若い順に並んで……へへ」

「ドロフ君、真面目に迅速に終わらせたまえ」


 重い雰囲気に似合わない下品な笑みを浮かべるのが、あの『水星』の名を冠するドロフ。

 そして、そんな彼女を叱咤したのが管理局の最高責任者であるアークトゥルスだ。

 普段なら、職員の視線は局長の方に集められるのだが、今日は皆がドロフへ好奇の視線を向けていた。


「あれが『水星』か? 初めて見たぜ」

「おいバカっ! あんなのが『水星』な訳あるかよ! 言動には気を付けろ!」


 それを聞いたドロフは思わず涙を滲ませた。


「私、泣いてもいいですか?」

「駄目じゃ。ほら、急ぎたまえ」


 アークトゥルスは語気を強めた。

 彼女は涙を引っ込ませて捜査を続けた。それから、とある忠告を発したのだった。


「……あ、心当たりがある人は先に名乗り出た方が良いよ。刑罰が軽くなるかもしれないし。私も手加減してあげるからさ」

「ドロフ君、そのような脅しは控えたまえ。それに、刑罰を下すのはデュクロ・エル様の役割じゃぞ。君に裁量権はない」

「ははっ、ごめんなさい」


 ドロフの一言によって会場の空気が凍り付いた。

 もし誰が犯人だったとしても、ここで名乗り出る者はいないだろう。

  なぜなら、彼女は水魔法使いの頂点に立つ女性だからだ。彼女に抵抗をしようものなら、一瞬で押し負けて殺される未来が目に見えている。

 アークトゥルスも含め、この場にいる全員が『水星』には勝てない。全員が束になったとしても同じ。

 だから、職員たちはブルブル震えながら、ドロフの捜査を受け入れたのだった。


「くんくん……違うなぁ。すぅ~~~……あまり気持ち良くない」

(気持ち良くない……?)


 ドロフの趣味寄りの感想に、職員から思わず疑問の声が上がった。

 しかし心なしか、大広間の空気が穏やかになった気がした。これは皆をリラックスさせるための策略なのか、それとも彼女が欲望に従った結果なのか、それは誰にも読めなかった。

 それからしばらくして、匂い嗅ぎの時間は終了したのだった。


「良い匂いには出会えませんでした」

「あのだな、ドロフ君……肝心の犯人は―――――」

「あ、言葉足らずですみません。闇魔法の匂いが付いた人は居ませんでした。あの匂いは結構好きなんですけどね」

「何? 念を押すが、その言葉は石に誓って言えるのかね?」

「はい、もちろん。闇魔法の匂いが付いた人は居ませんでしたよ」

「……儂の推測が間違っておったか。おい、寮舎の裏に付いて来なさい。イオ君が襲われた場所を調べるぞい」

「はーい」


 ドロフの捜査結果に、アークトゥルスは眉をひそめた。彼の目論見通りなら、ここで犯人を洗い出せるはずだったのだが。

 しかし、普段はふざけている彼女が真剣に報告をしたのを見て、何か納得した様子で次なる場所へ向かったのだった。

 そして、彼は大広間を出る直前に一つだけ指示を出した。


「各自、自由行動を許可する。ただし、一人では行動せんように。事前に取り決めた三人一組で固まること」

「「「はい」」」


 職員たちの揃った返事を聞き届けてから、ドロフと共に部屋から出ていった。

 ちなみに三人一組に組む意味は、犯人を牽制するだけのもので、実際は特に意味はない。少なくとも犯罪を抑止するための仕組みではなかった。

 だって、連れ去られたり殺されたら終わりだろう。


 捜査に協力し終えた職員たちは、思い思いに背を伸ばした。それから、犯人の噂話なんかを始めたのだった。


「それにしても大変なことになったね。イオ君は大丈夫だった?」

「な、何でイオのことをボクに聞くんですか?」


 三人一組を作ったブラキウムが、唐突にシロンへ質問を投げ掛けた。


「ほら、よく一緒にいたじゃん」

「ボクは犯人じゃ――――」

「あっ……そういうつもりじゃなかった。仲が良さそうだったから、もしかしてイオ君について知ってるんじゃないかなと思って……」

「そ、そうですか……イオ君は大丈夫そうでしたよ。あとボクはイオ君とあんまり仲良くないです」

「照れちゃって」

「照れてないです」


 少なくとも、イオはシロンと仲良くなれたと思っていたのだが、シロンにとっては知人以上友達未満といった感じらしかった。

 悲しい現実だ。


「そろそろ寝ようよ~。テグミン眠たいよ~」


 二人だけの会話に新たな声が飛び込んできた。

 気怠そうに言葉を発したのは、三人一組の最後のメンバーである白髪の少女だった。身長はシロンよりも小さく、黒色の瞳を持っている可愛らしい少女だった。どうやら一人称が名前らしかった。

 今はワンピースを着ていて、彼女が左右に揺れる度にスカートの部分がゆらゆらと連動して、海を漂う白いクラゲのようになっていた。可愛かった。


「そうですね。じゃあ寮に戻りましょう」

「うん、ボクも眠たいなぁ……ふあぁ」


 他の職員達も雑談を済ませた後、それぞれ寮や浴場、図書館へと向かっていった。

 結局、犯人探しは振り出しに戻ってしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ