21話 詮索の要
今現在、リブラ魔法管理局の局長室に存在しているのは、たった三人の人間のみ。
イオ、カナン、スピカの三人だけだ。
イオは、椅子に腰を落ち着けて、扉の近くに並び立つ他二人と会話していた。
「それにしても信じられないなァ。まさかのまさかね、木と土の魔法を操る人間が本当にいるなんて」
カナンは、上着の袖口から見え隠れしている包帯をいじりながら、静かに大袈裟に驚いて見せた。
「まあ、アタシらの任務は変わらないけどな! 黒い靄が見えたらブッ飛ばす! それだけだ!」
スピカは腕組みをしたまま宣言した。彼女自身、護衛能力に関してはかなり自信がある模様。
アークトゥルスによれば、彼女は世界に五体しかいない精霊の内の一体を操れるらしいが。
「それで……『足』の精霊でしたっけ? それって何ができるんですか?」
「ふん、よく聞いてくれた! 精霊ってのは、人間から魔力を吸い取って生き長らえるんだが、その代わりに体の一部に宿って特別な力を使わせてくれんのさ!」
「はぇ~」
「んで、アタシの精霊は足に宿る。この星の誰より速く走れるんだぜ。あ、今『それだけかよ』みたいな顔したな。言っとくけど、精霊術を極めたら時空を越えられるようになるんだぜ?」
「マジですか? え、本当?」
イオは、心底疑り深い顔でスピカを見た。
いくら精霊でも、時空を越えるのは少しばかり超常的な気が……あ、でも、ここはファンタジー世界なんだから超常的でも何の矛盾もないか。
彼は、そんな感じで自己完結した。しかし、念のためにスピカの話に耳を傾けるのだった。
「ああ、本当だ。今回の件で、ウチのもう一人の精霊使いが『目』を使って犯人を特定しようとしたんだ」
「その人なら、事件当時の状況が分かると?」
「いや、まあ、そうだけど……結局のところ犯人は特定できなかったんだよな……」
スピカは、肩を落として自分のことのように残念がった。どうやら、イオの身に起きた事件に親身になって取り組んでくれているようだった。
ありがたいことだ。心強い。
彼女の思案により話は一旦途切れ、相手はカナンに移った。
「ねェ、イオ君。君はどの程度の傷まで治せるんだい? アークトゥルス先生の話によれば、かなり優れた力だと分かるんだけど」
「それが……今のところ、どんな傷でも治ってます」
「そ、そうかい。まァ、気に病まないでね。しかし、ゲミンガが成果を出せなかったのが悔やまれる。一体どうやってあの視界を掻い潜ったのかな……」
「アタシも悔しいよ。ゲミンガはいっつも上手くやれてんのに」
カナンは、自身の細い顎に手を当て、犯人の逃走経路について考察を始めた。その一方、スピカは再び肩を落としたのだった。
今更だが、二人はイオ事件が解決しなかったのを残念がった訳ではないらしい。どうやら、ゲミンガと呼ばれている精霊使いが、その問題を解決できなかったことを残念がっているようだった。
そのことに気付いた時、イオは酷い疎外感を覚えたのだった。
「はァ、遅いね。そろそろドロフを連れて、先生が帰って来る頃合いなんだけど……」
ドロフは女性の名前であり、ゲミンガとは別の方法で事件を捜査できる魔法使いらしい。
運良く管理局周辺の宿に泊まったらしかったので、アークトゥルスが彼女を直々に呼び出しに行ったのだ。
つまり、裏を返せば、局長が呼び出さなければ動かないような人物が、あと少しでここに来るということだ。前情報を聞く限り、何とも恐ろしい人物だと言える。
そんな時、三人だけの局長室に音が聞こえてきた。
「うるさいなァ。やっと来たか」
「イオ、覚悟してろ」
「え? それってどういう意――――」
「こんばんはぁ~~~っ!!!!」
ドタドタとうるさい足音が聞こえ、年長二人組は揃って顔をしかめた。
その次の瞬間、扉が勢い良く蹴破られ、女性が突入してきたのだった。
しかし、ただの女性ではなかった。
髪は灰色に水色が混ざった独特の色合いで、瞳は綺麗な空色。体つきは豊満で、その優しい声も相まって「お姉さん風の女性」という印象を受けた。
そしてなんと、頭に犬のような耳が生えており、腰の少し下から尻尾が生えていたのだ。あと、なぜか首の辺りに青い石が埋まっていた。見ていて痛々しかった。
あ、一応言うが、痛々しいというのは精神的な意味ではなく物理的な意味も持たせている。
それはさて置き、イオは初めて本物の獣人を間近に見ることができた。
少し前に、商店街で何人かとすれ違ったが、あの時は興奮が抜け切れておらず、獣人に関する思い出が曖昧になっていた。
しかし、今改めて常識を超越した存在を目の当たりにし、イオの胸は高鳴ったのだった。
しばらくすると、女性は息を切らしながらイオの方へダッシュした。
「はぁ、はぁっ! ね、ねぇ君がイオさんでいいのかな!?」
「あ、はい。そうですけど……」
女性は、イスに座ったイオの前に四つん這いのままスライディングして、そのまま息を荒げながら続けた。
「に、匂いを嗅がせてくだしゃいっ!!!」
イオの興奮を遥かに上回る勢いで、女性は堂々と言い放ったのだった。
これに彼は思わずドン引きした。




