17話 女みたいな男
誰かと風呂に入るなんて、そんな機会は滅多にない。幼い子供なら話が変わるのだろうが、イオはもう十代後半の立派な少年だ。
つまり、何が言いたいのかというと、初対面の人間に体を洗われるのは結構緊張するということ。
しかも、相手の見た目は限りなく女に近い男なので、それが更に緊張を増長させている。柄でもなく、少し興奮してしまうではないか。
「洗い方が痛かったら言ってね」
「あ、あぁ……」
言われるがまま、為されるがままに、イオの体の隅々へ手が伸ばされていく。
身体中の筋肉が緊張によって一斉に収縮し、つい腹の底から裏返った声が出てしまった。
「だいじょーぶ?」
「あ、あぁ……全然平気……」
先ほどからイオは同じ言葉しか喋っていない。
まるで某アニメ映画に登場するカオ○シみたいではないか。これでは気味が悪い。印象も最悪だ。
しかし、アルテルフはそんな彼の意を介さず、無造作にイオの体を洗うのだった。
暑苦しい密室、男二人、特に何かハプニングが起こる訳もなく、二人のスキンシップは無事に終了した。
少し経った後、湯船に浸かりながら二人で雑談をしていた時に、お互いの過去についての話題が出たのだった。
「そー言えば、イオ君って召喚装置の中から来たんだっけ? シロンちゃんが話してたよ」
「そうだけど……シロンが俺のことを言って回ってるのか?」
「うん」
(アークトゥルスさんの言いつけをちゃんと守ってるんだろうな……?)
「どーしたの?」
「いや! 何でもない……」
イオは、古の時代に埋もれたとされる、あの木属性の魔法を『なぜか』使えることになっている。
それは異世界召喚特有のチート付与だと、彼は疑った。しかし、後天的に魔法属性を得る方法は限られており、ほぼ不可能に近いとアークトゥルス局長に教わった。
シロンを助けたい一心で崖から飛び降りた後に、体が綺麗に再生していたのだから、もう信じるしかなかった。証拠はイオの体験、あの忘れることのできない鈍痛だ。
おでこを撫でる風の感触、鬱血するくらい抱き締めたシロンの柔らかい体。それから、思い切り叩き付けられた地面の固さ。何もかも覚えていた。
間違いなくイオは死んだのだ、あの時に。
あの後は、問題続きで疲れていて、そのことから目を背けて平静を保っていたが、湯船の中で改めて思い出してしまった。肺が締め付けられるような、不快感を伴う息苦しさを感じてしまったのだった。
そう言えば、あの時に流した血は、この湯と同じくらいの温――――
「のぼせそーだし、そろそろ上がろっか」
「……っ、そうだな。結構きついし」
「ん? フラフラしてなーい? だいじょーぶ?」
「うっ、やばいかも……水あるか?」
どうやら、疲れ切ったイオの体にとって、この長湯はストレスになってしまったらしかった。その数分後、また彼は療養室のベッドに乗せられた。
体調管理を怠ったせいで、のぼせてしまったのだった。




