15話 隠し通せ
シロンによる読み聞かせが終わった後、イオはブラブラと管理局内を歩き回っていた。
なぜかと言うと、彼女はブラキウムに呼び出され、一人取り残されてしまったからだ。
よっぽどブラキウムが恐ろしかったのか、その時の彼女の表情には鬼気迫るものがあった。
「探検でもするか……」
そうは言っても、先日に案内されたばかりの管理局には探検するほどの新鮮味はない。しかし他にやることはない。
仕事を休んでいいよ、とシロンからの厚意を受けているのだから、それを無下にはできない。
もしかしたら、やることがないのが正解なのかもしれない。
と、適当な考え事をしながら、イオは何となく自室に戻ることを決めたのだった。
「人が多いのは、やっぱりキツい……」
職員寮に戻ってみれば、見渡す限りの人、人、人。
まだ昼間で仕事中の人間が多いと思われるが、それでもイオにとっては十分に多く感じられる。オフィスエリアに負けず劣らずの人集りだった。
彼は人混みの中を進み、階段に辿り着き、重い足を上へ上へと運び、ようやく安息の地との対面を果たしたのだった。
「ふう、そんなに疲れてないと思ったんだがな……」
イオは部屋の扉を閉めて、勢い良くベッドへ飛び込んだ。
それから、枕に沈んだ顔を引き上げつつ、体を半回転させて仰向けになり、天井を見ながら異世界生活の反省回顧へと洒落込んだ。
脳裏に緩やかに思い出されるのは、まだ記憶に新しいウミウシとの邂逅のこと。
シロンに弱い部分を見せたくない、と必死に気丈に足掻くように戦ったが、同時に例の変異種へ恐怖を抱いていたのも事実。身体的にも精神的にも、受けたダメージは大きかった。
それなのに、イオの中に眠る力が身体的なダメージを綺麗に取り払ってしまったのだ。
つまり、今残っているのはドロドロとした精神的な不快感だけ。気持ち悪いとしか言えなかった。
「はあ……せっかくならさ、もっと強い能力をくれよ。何で再生能力とかいう地雷を受け取らなきゃならないんだ」
再生能力は一見すると、絶対に負けない最強の能力に思えるが、一つ大きな欠陥がある。
それは痛みを忘れられないことだ。
鋼のメンタルの持ち主でもなければ、この厳しい世界で精神崩壊するのは時間の問題だろう。
イオはそれを危惧していた。だから、再生能力に良いイメージを感じていなかったのだ。
「まあ、俺は1ヶ月で帰るから関係ないが。そもそも、俺は一応ここの管理局員って烙印を押されてるんだ。下手に魔法を使わない限り、変な奴も寄ってこねぇし、寄ってきたとしてもここの強い魔法使いに守ってもらえるからな」
イオには絶対の自信があった。元の世界に無事に帰ることができるという自信が。
ただ働いて、ただ帰るだけ。これは難しいことじゃない。まだ中学生のイオでも簡単にこなせる任務だ。
ほのぼのスローライフが許されない系の異世界生活になるが、召喚された途端に命を狙われる治安の悪い異世界生活ではないだけマシだと思った。
「唯一不満な点を挙げるなら、魔法を使うなってこと。まあ、仕方ないよな」
イオは布団の柔らかな感触を背中に感じながら、目を閉じて、呼吸を落ち着かせた。
それでも不思議と眠くならないのが不安だが、いつか眠りに落ちるだろう。
彼はそう考え、昼寝で時間を潰すことにしたのだった。
太陽はまだ空高くにあり、風は少し蒸し暑かった。




