11話 ぶつかり合い
想像通りか、それ以上。
「ッ! うらぁッ!!!!」
どんな攻撃もまるで歯が立たない。
「どうだッ!!!!」
どこを狙っても的確に受け流される。まるで水中で足掻いているような感覚だった。
どれだけ手を伸ばしても、何も掴めなかった。
「隙だらけ、ほら!」
「がッ!?」
イオの体たらくを見計らってか、ペルセウスからカウンターが繰り出された。体の回転エネルギーを乗せた鋭い蹴撃だった。
それは綺麗な半月状の弧を描き、吸い込まれるようにイオの脇腹に命中した。攻撃を受ける体勢を整えていなかったイオはエネルギーを逃がし切れず、絶望的なダメージを受けた。
「よし、これで試合は――」
「まだ終わり……げほッ、ません! くッ……」
「……そう来なきゃ!」
しかし、そこで倒れるイオではない。
ペルセウスは魔法を使えないだと?
そんなの関係ないだろう。こうなったら手段は選んでられない。
イオは意識と無意識の狭間で、全身に宿る魔力を傷へ集中させた。生存本能が働いた結果だ。
そして、一瞬の内に血管も骨も全て治し、痛みを完全に取り払うことに成功した。
ここからは作戦変更だ。
と言うか、やり方を変えないとイオに勝利はやって来ないだろう。
彼はペルセウスに蹴り飛ばされ、少しだけ距離を確保できた。
そこから更に後ろへ飛び退いた。
「ん? 一体何のつも――」
「喰らえッ!!!!」
なぜ彼は十分な距離を取ったのか。
その理由は単純明快。
イオが魔法で一方的に蹂躙するためだ。少し可哀想かもしれないが、彼が勝つためにはこれしかない。
彼は両腕を地面に突き立てて、雄叫びと共に魔力を放出した。土魔法によって操られた大地は凶暴な獣である。姿こそ見えないが破壊力と機動力は抜群に高い。
手に伝わる確かな感触を頼りに、彼は素早く攻撃を仕掛けた。
「のわぁ!?」
案の定と言うべきか、イオの魔法に対応できなかったペルセウスは足を掬い上げられ、体勢を崩すことになった。
それでも攻撃の手は緩めない。転ばせたくらいでは勝敗など決まらない。
「ぐ……ッ! まだまだッ!!!!」
もしそうだとしたら、数十秒前のイオは敗北したことになる。ここはしっかりと白黒付けて、差を見せなければならないはずだ。
イオは土を巧みに操って、容赦なくペルセウスの手足を絡め取り、彼の自由を徹底的に奪い、大量の土で囲い込んだ。
そして、数秒間様子を伺った。
「……よし、これで俺が――」
「まだ終わらないよ! 残念でした!」
イオが安堵しそうになった時、突如として土塊の中から明るい声が聞こえてきた。紛れもないペルセウスの声だった。
あり得ない。
その声に続いて、バキバキと土が割られる音まで響いてきたではないか。
「ど、どうやって抜け出したんですかッ!?」
「力を込めてこじ開ける、それだけさ!」
土壁が破られる音と共に、筋肉の塊が勢いよく飛び出してきた。ペルセウスはどうやら圧倒的な筋力で魔法を打ち破ったらしい。
予想だにしない解決法を取られ、イオは驚きを隠せなかった。
そこでイオの精神状態は不安定になり、それが如実に行動に表れた。
足取りがたどたどしくなった彼の懐に、ペルセウスは一瞬で詰めてきた。
しかし、ペルセウスの二度目のカウンターが鳩尾に迫った瞬間、イオは咄嗟に体を捻り、何とか猛撃を凌いで見せた。
互いに一度ずつ窮地に追い込まれたわけだが、試合終了の予兆は感じられなかった。
「はぁ……はぁ……ッ」
「……ふぅ、よし!」
イオはペルセウスとの距離を確保し、焦りながら呼吸を整えた。
そこでようやく観客の熱狂加減に気付いた。
どうやら二人の接戦に、周囲は思いの外のめり込んでいたらしかった。
彼は鼓膜に押し寄せる歓声の波を断ち切るべく、意識を集中させた。
「ここからは後半戦だよ!」
「はぁぁぁぁッッ!!!!」
しばらくの静寂を味わった後、拳がぶつかり合う音が中庭に響いた。




