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A lot of stars  作者: 赤秋の寒天男
第四章 太陽の光
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7話 安寧の社

――――カチカチ、パキパキ


 薄暗い部屋の中を木霊する機械音。

 メルガの手捌きに合わせて、直りかけの召喚装置が簡単な動きを繰り返していた。

 完全修復への第一歩といったところか。


「――それで、あの二人に何があったんだ?」

「唐突過ぎません?」


 機械弄りを続けていたメルガが、急にイオの方を向いて、ゲミンガとスピカの近況について尋ねた。

 一体何がきっかけで話を振ってきたのか、彼には全く分からなかった。


「えっとですね……二人はリオ郊外の洞窟の調査に行って、そのまま俺たちと別れて現地に泊まって、次の日の朝に襲撃されたみたいです」

「なんでその日の内に帰って来なかったんだ?」

「さあ? 俺もよく分からないです」


 イオの答えを聞いたメルガは、また何か考え込むかのように機械と向き合い始めた。

 そして、しばらく経った頃。


「――精霊が体から抜けた時のショックはかなり重いらしいぞ」

「そうなんですか?」

「あぁ、先代の『目』のジジイは、それで完全にボケちまったらしい」

「そうなんですね……ボケって言うと、精神病ってよりは体ごとダメになる感じなんですかね……?」

「お前の予想通り。精霊ってのは魂……つまり、人の中に生きる二つ目の命なんだ。それを出し入れするのには当然エネルギーをたくさん使う。お前だってそうだったろ?」

「え、俺ですか? 俺は気付いたら『耳』の精霊が宿ってて……何も知らないですよ」

「だからそれだよ。自分では何も知らないって思い込んでるんだろ? それ、記憶が抜け落ちてんだ」

「……? 何を言って――」


 イオはメルガの言ったことを疑問に思い、その真意を問おうとしたのだが、なんと急に脳内で激しい嵐が巻き起こった。

 脳味噌を根底からひっくり返されたような鈍痛と共に、全身を駆け巡る鋭い電気のような痛みを味わった。

 イオは思わず悲鳴を上げた。


「ぐぁ……っ!? い、ってぇ……」

「――やっぱり精霊使いって変なんだよな。確かお前ってさ、アクエリアスで『性』とヤりあったんじゃなかったか? ソイツにも似たような症状が出てたはずだぞ」

「マイ、アさん……? ああ、あの人は、確か……そっか、多重人格だ、った……いてて……」

「やっぱりな」


 納得した表情を浮かべた彼女は、満足気な様子で機械に話しかけ続けていた。

 苦しそうに悶えるイオの方を少しも見ようとしなかったのだった。


「たぶんお前もそうなんだよ。記憶喪失的な何かに違いない」

「記憶、喪失ぅ……? っはぁ、ふぅ……ははっ、誰もそんなこと言ってませんでしたし、そもそもそんなこと信じられませんけど」

「じゃあ、皆がイジワルだったんだな」

「そんな訳ない……でしょ……っ、何か理由があるはず……」


 イオは揺れる頭を押さえ付けつつ、ゆっくりと立ち上がって、メルガの正面に回り込んだ。

 息は荒いまま、額には汗が出始めていた。


「ってか、メルガさんだってイジワルですよ。もし俺が本当に記憶喪失だとしたら、根拠となる理由を知ってるはずです。

皆をイジワル呼ばわりできたのは、自分もそれを知ってたからですよね? 知ってるのにわざわざ記憶喪失隠しに加担して、俺に対して負い目を感じてたんじゃないんですか? だから、ここでこっそり明かしたんじゃないんですか? 違いますか?」

「当たってる……当たり過ぎて気持ちわりぃよ。お前ってヤツは、いざ自分のことになったら完璧に読み切れるんだな。さっきのボードゲームとは大違いじゃねぇか。ビビり過ぎってか……ちょっと警戒線張り過ぎじゃねぇの?」


 メルガは観念したように両手を上げて、降伏の意を示してきた。

 しかし、その次に語られたのはイオの記憶喪失の件についてではなかった。

 はぐらかされた。


「――でもさ、あたしが言ってどうこうって話じゃないよな? 解決しねぇし」

「……逆に何で言わないんですか? 俺の記憶喪失っていつからなんですか? 他の誰がこの症状について知ってるんですか? 教えてください」

「あー、言うなって口止めされてるんだけどな、でもいいや」


 メルガはイオの目線に合わせるように立ち上がって、彼の緑色の瞳を見据えて言った。

 彼女が初めて見せた真摯な態度だった。


「墓があるんだ」

「墓?」

「あぁ、共同墓地だ。この国で死んだヤツの中でも、特に身寄りがいないのはそこで眠りに就くんだ。そこに名前が丁寧に彫られてんだ。その中に――」

「――もしかして、死人に聞けってことですか?」

「そういうこった! はははっ、教える気なんて最初からねーよ! 自分で探してみろ!」


 少しでも信じた自分を殴りたい。イオはすぐにそう思い、メルガの目から視線を逸らした。

 きっと彼女は、そう指示されているのだろう。なかなか口を割らない訳だ。


「ここは争いのない平和な国。そんでもって、リブラ魔法管理局は平和の砦」

「…………」

「五つの聖魔石と二体の精霊で、絶対的な秩序の下に安寧を保ってたんだ」

「…………」

「だからな、お前は何も知らなくていい。何も知らないまま安全な内に元の世界に帰してやる」

「…………」

「お前も平和は好きだろ? あたしも好きだぜ」


 屈託のない笑顔で、メルガはそう言い放った。

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