3話 淡い空想の中
そろそろ4000PVです
ありがとうございます
毎日が同じことの繰り返しだ。
起きて、食べて、働いて、寝る。
つまらなく見えるかもしれないが、これが意外と楽しい。
つまり、毎日が同じ幸せの繰り返しなのだ。
「これ重いよ……」
「俺が持っていく。貸して」
「お、ありがとね」
ボクが今まで味わってきた辛く暗く長い人生と、少しも比較できない巨大な幸せがあった。
リブラ魔法管理局は飽きない場所だった。
「やべ、料理取りすぎたかも……」
「あ、お肉いただき!」
「何すんだよ!?」
誰かがボクに構ってくれるだけで、こんなに人生が彩られるなんて思ってなかった。
本当にここに来れて良かった。
「今日も疲れたね」
「俺はそうでもないけどな」
「そこはノリで合わせようよ――」
だからこそ、もっと近くにいてくれたら、これからもずっと一緒にいてくれたら、ボクにとってどんなに良かったことか。
ボクのこの苦悩を、ボクの目の前にいる腑抜けた面の男は知る由もない。
「――バカだなぁ」
「バカは言い過ぎだろ……」
こうして貴重な一日を消費していくのだ。
ああ、ボクよ、何たる怠慢か。
◆◆◆
とある日、いつもより難しい仕事を頼まれた。
しかし、色々あって二人の共同作業は滞りなく終了した。これは互いの連携があってこその成功だと言える。
その仕事が終わるとシロンは浴場へ出向き、イオは別の場所へ向かった。
いつもは一緒にいる二人だが、互いの目的のためならバラバラになることも珍しくなかった。
イオは汗だくになったシロンを見送ってから、リブラ魔法管理局の一室の扉に手をかけた。
「――どうも、元気ですか?」
「――――」
沈黙が返事をした。
と言うのも、イオが訪れたのは療養室で、そこにいたのは二人の男女で、両方とも返事さえできない精神状態に陥っていたのだ。
男は虚ろな目で天井を仰ぎ、その横で女が死んだように眠っていた。
偉大なる精霊を失った彼らは、まさに脱け殻のような態度を貫いていた。もはや死体と呼んでも差し支えないほど、日々の生活に取り組んでいなかった。
イオはふと二人の机を見たが、そこには誰も手をつけていない料理がポツンと置かれていた。
おそらく昼食のはずだが、夕方になるのに放置されていた。
冷めたソレから目を逸らしつつ、イオは今日あったことをつらつらと喋っていった。
「初めて仕事やってみたんですけど――」
「――――」
「それでシロンがこけて――」
「――――」
「なのに今日の夕食で――」
「――――」
まあ、当然ながら話題にも目線にも困る。
せっかく話しかけても返事がないから、話を広げようがないし、どんどん話のネタを潰される。
しかも、ゲミンガは長く伸びた前髪から痛々しく窪んだ左目を覗かせているし、スピカに至っては掛け布団の右足部分がストン落ち込んでいるので足が切断されたのが丸分かり。
そもそも両方に言えるが、話を聞いているのかさえ分からないのだ。
全くどうしたものか。
「――あ、そうだ」
ここでイオはあることを思い出した。シロンから貰った小瓶のことだ。
実は昼間の休憩時間に、小瓶が持つ意味や果たす役割をスコルピイにこっそり聞いたのだ。そこで返ってきたのが「それは大切な人に送るものだよ!」と言う驚愕の事実。
正直な話、シロンが自分のことをそんな風に思っていたのかとイオは心底驚いたが、それと同時に自分もゲミンガたちに小瓶を渡したいと思った。
この二人に、お守り的な役割を持たせた小瓶をあげたいと思ったのだ。
「倉庫から拝借した二つの瓶に……俺の木属性の魔力を限界まで……」
彼は指先が痺れるほど力を込めて、体中の魔力を二つの瓶に注ぎ入れた。
そうでもしないと、はっきりとした緑色を出せなかったのだ。
(シロンは簡単に色を出してたけどな……)
それから小瓶に蓋をして、紐を通して、それぞれのベッドの枕元に置いた。
もし直接渡しても、たぶん受け取ってくれなさそうな雰囲気だった。
「これ、お守りです。傷がズキズキと痛んで、どうしても耐えられない時は、その小瓶の中身を患部にかけてみてください。万が一使わない場合でも、外出する時は念のために首に提げといてくださいね」
もちろん二人からの返事はない。
しかし、それでもいい。
なぜなら渡せたことに意味があるからだ。
シロンが何らかの理由で小瓶を介してイオに思いを伝えたように、同じようにイオもゲミンガたちに助かって欲しいという願いを託したのだ。
それがどんなに小さな願いであっても、それが固い意志によって形作られているならば、きっと必ず叶うはずだとイオは信じていた。




