2話 何もかも詰め込んで
静かな朝、無言でシロンと廊下を歩く。
いとも単純で、面白味のない行為だったが、イオはこれがなぜだか楽しかった。
不思議と心から安心する感覚があった。
「――ねえ、イオ君」
「っ……ぅ、ん?」
だから、隣を歩く少女について考えていた時、当人に話しかけられて心臓が飛び跳ねた。
イオは詰まり気味に返事をした。
「アクエリアスに行った時に買ったものなんだけどさ……ぜひ貰ってくれない?」
「それ何だ?」
彼女が手際良くポケットから取り出したのは、使い道が分からない小瓶だった。
見てみると、コルクで栓がしてあり、更に瓶の上部にある穴に紐が通され、首から提げられるようになっていると分かった。
そして、その中に真っ赤な淡い光が詰め込まれているのも分かった。
イオは見てからすぐに気付いた。
その正体は、火属性の魔力を限界まで濃縮し可視化したものらしかった。
「――貰っていいのか?」
「何も言わずに首から提げて。それで、なるべく皆に見せないでくれる?」
「あ、あぁ……なんで?」
「いいから」
シロンは、小瓶の紐を輪っか状にして、イオの首にそっと掛けた。
それから言うまでもなく、その行為によって二人の距離が物理的にかなり近付いた。吐息が顔にかかるくらいまで。
「……っ、ありがとな」
「別に」
しかし、それより距離が縮まることはなかった。
イオたちは何を新たに話す訳でもなく、粛々と倉庫へ向かったのだった。
疲れた表情のシロン、火照った表情のイオ。
風邪を引くんじゃないか、と錯覚してしまいそうなくらいの温度差が二人の間にはあった。




