26話 失われたモノ
ウミウシ車の雰囲気は最悪だった。
まるで共通の友人を亡くした後のような……まあ、実際それに近い事件に巻き込まれたのだが、本当に酷い空気だった。
「――――」
聞こえるのはカタカタと揺れる車体の音。それにウミウシのフガフガとした呼吸音だけ。時間が時間なだけに、外からは人の気配すら感じられない。
ただただ静かな帰り道だった。
「……シロン、ウミウシを見ててくれ。シリウス、周囲の警戒を続けてくれ」
「分かった、イオ君」
「了解しました、イオ先輩」
王城までの道のり。そのおよそ半分を通り過ぎたところで、荷台で横たわっていたゲミンガとスピカの意識に変化があった。
どうやら治療が効いてきた模様。
イオはそれを察するとすぐに運転席を離れ、後方へ飛び移った。
「大丈夫ですか、ゲミンガさん?」
「ああ……それにしても随分と目の辺りが痛むな。痒いし布を外してもいいか?」
「……どうぞ」
「ありがとな…………って、目の辺りがスースーすると思ったら……先に言ってくれよ……」
ゲミンガは、意識が覚めたのと同時に自分の体の異常に気付いた。
そして、自らの眼孔を手でベコベコと押し込んで確認し、疑念を確信に変えたようだった。それはイオの全力をもってしても治せなかった深い傷であり、また身体的な傷であると同時に精神的な傷でもあった。
それからゲミンガは記憶が途切れる以前の出来事を、糸を手繰り寄せるように思い出していった。
「……ダメだな」
彼がため息をつくように言い放った「ダメ」という言葉にどのような意味が込められているのか。
その時のイオには分からなかった。
「スピカは眠ってるか……」
「あ、はい」
「その足だと……寝てた方がいいな」
「そうですね」
「精霊は無事か?」
「あ、今出します。この事件は既にアークトゥルスさんに報告してありますけど。連絡ならご自由に」
「違う」
「……あ、その――」
「俺の精霊はどこだ? お前の『耳』じゃなくて俺の『目』だ。それに『足』も」
「…………もう、逃げました」
イオの弱々しい言葉を聞いた途端、ゲミンガは腕で顔を覆って勢い良く上を向いた。そして、腕に塞がれていない口から大きなため息を吐き出した。
その重苦しいため息の最後の方は、ゲミンガの喉が震えて途切れ途切れになっているのが分かった。聞いていて涙が出そうになる、いかにも悲壮感に溢れたため息だった。
「…………なんか、もう、ダメだな」
そう言い残した彼は、あからさまにふてくされて眠ってしまったのだった。




